第4話

 パソコンに視線を戻す。

 マウスを操って、お気に入り登録をしているブログのひとつを開く。

 多くのブログやホームページをお気に入り登録しているわけではない。そのようなものに時間も労力も出来るだけ取られたくはない。だから厳選した結果残ったものは、わずかに七つほどしかなかった。


 開いたのは桃色ヒトデというハンドルネームの方のブログである。ネットで知り合ってからもう四年。プロの作家を目指し、様々な文学新人賞に投稿している女性であった。はっきりと教えあってはいないけれど、私よりはひとまわりは若い世代だと感じていた。


 彼女は、一度投稿すると決めた文学新人賞には必ず投稿を果たした。たとえそれで追い込み時期にどれだけ徹夜が続くことになろうとも、いったん決めたものは必ず完成させ続けていた。

 私は、その行動力と情熱に尊敬の念を抱いている。

 さらに彼女は実績も着実にあげていた。最近では最終選考に残ることも度々あり、業界内ではそれなりに名前も知れて、出版社の編集者と食事をするところまで進んでいた。

 夢の実現まで後一歩というところだった。


 それが四ヶ月前、突然ブログの休止宣言をした。病気が見つかり、手術と入院をすることになったというのが理由であった。闘病記をアップするという手もあるけれど、しっかり養生をするためにも、休止を決めたとのことであった。

 コメントやちょっとしたメッセージのやりとりはする間柄であったので、病気の回復を祈るコメントを入れた。必ず戻ってきますという力強い返信があった。


 彼女のブログには、いつも勇気と元気をもらっていた。だから更新されていないことを知りながら、こんな風に時折、自分を叱咤激励する意味で訪問する。


 ぐっと下腹に力を入れ、よしと短く気合を入れると、自分好みに設定しているテキストエディターを立ち上げた。書き始めたばかりの小説原稿が画面いっぱいに広がる。マルチドライブに挿入したままのCDからはいつもの作業用のBGMが流れている。

 このまま作業に入り、熱中してしまうと時間を忘れ、力尽きて寝落ちするまで作業を続けるだろう。そうなれば十三時間後の待ち合わせも危うくなる。それでもその作業をせずに明日を待つ気にはどうしてもなれなかった。

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