6.子供を産んできた ※出産レポ


 ずいぶんと久しぶりの更新となってしまいました。


 私彩華は3月の半ばに出産し一児の母となりました。


 育児に追われ忙しい日々ですが、少しだけ余裕が出て来たのでまたちょこちょこ書いていこうと思います。


 今回は備忘録も兼ねて出産レポを書いてみようと思います。


~~~~~


 「陣痛と出産の痛みを乗り越えたら怖いものなんてなくなる。」


 これは出産前によく言われていた言葉だ。想像を絶する痛みだとか、気絶するレベルの痛みだとか、ここには書けないようなあらゆる脅し文句を浴びせられた。


 それらを真に受けてしまった真面目な私は、出産予定日が近づくにつれて未知の痛みへの恐怖を募らせ、一人の時に破水したら、陣痛が来たら、痛みに耐えられなくなったらどうしよう。そんなことばかり考えて過ごしていた。


 だが、自分たちの遺伝子を受け継いだ我が子との対面はやはり楽しみである。

 痛みに耐えて赤ちゃんを産み終えた時、愛しい子を胸に抱きしめて夫と感動の涙を流す。そんな綺麗な情景を夢見ていたりもした。


 まあ実際はそう良い感じにはいかないのだが。


 胎児の心拍が初めて確認された時、出産予定日は3月9日と言われていた。しかし、9日の朝になってもその兆候は見られなかった。予定日がずれたのだ。予定日超過が長引くと母子ともに負担が大きいと聞いたので、オロ○ミンC、ウォーキング、焼き肉、カレー、あらゆるジンクスを試した。周りからはまだかまだかとプレッシャーが降り注ぎ、私も夫も少し焦っていた。


 (同時期に妊娠していた友人からはお迎え棒を進められたが、体調の悪さと赤ちゃんに何かあったらという不安でなかなかそんな気分にはなれなかった。)


 陣痛が始まったのは予定日を6日超過した後の深夜3時。痛みは20分間隔ぐらいだったように思う。最初は何となくお腹痛いかな? くらいの曖昧な痛みが徐々に徐々に強くなっていった。


 産院に連絡すると、来るのは7分間隔ぐらいになってからでも大丈夫なので、今はしっかり朝ご飯を食べておくようにとのことだった。出産は体力勝負だからと夫が大量のおにぎりを買ってきてくれたが、当然食欲はない。半ば口に押し込むような形で食べた。


 連絡を受けた実母が高速に乗って駆け付けた頃には既に10分間隔。少し早いがもういいだろうとアパートを出発した。


 産院に向かう車の中で痛みは更に強くなり、2分ほど続く痛みのピークを深呼吸と腰を浮かせることで耐えていた。


 7時頃に産院に到着した後は助産師さんの診察を受け、身体の準備が整っていることが分かったので分娩着に着替えてNSTを着ける。陣痛は4~5分間隔。深呼吸をして耐える。お腹の中で赤ちゃんが左に寄っているらしく、まっすぐにするためにビーズクッションに上体を預けての体操をするように指示を受けた。


 体操の後は病室で待機。産院で用意してくれた熱めのお湯と森の香りの入浴剤が心地よい足湯でリラックス(できるわけない)タイムだ。この時点で陣痛は3分間隔。まだ深呼吸で耐えられるレベルの痛みだった。分娩室から聞こえてくる「痛い痛い! 」という叫び声が不安を掻きたてる。


 出産のしおりには理性が飛び声が出るほどの痛みが襲ってくると書かれていたので、これ以上の痛みが来るのかと軽く絶望した記憶がある。


 陣痛が1分間隔になり、いきみたい感覚が出て来たのでナースコールをして分娩室へ向かう。痛い。立っているのが精いっぱいなほど痛い。歩けない。でももっと痛いのが来るんだ。ヤバい。


 必死の思いで辿り着いた分娩室でもビーズクッションにもたれかかりひたすら耐える。助産師さんが尻の穴を抑えていてくれるのがとても心強かった。


 痛みを逃そうと深呼吸を繰り返す。痛い、いきみたい、でもまだいきんではダメらしい。きっとまだこれ以上に痛いのが来るんだ。あ、トイレ(大)行きたい。この痛みを少しでも夫に分からせたい、この野郎、腕掴んでやる。痛すぎて動転して変なこと言ったらどうしよう。産むときはCのポーズ(※マタニティヨガで教わったポーズ)忘れずにしなきゃ。それにしてもトイレ(大)行きたい。っていうかまだ痛くなるのか。やめてくれー。


 余裕がない割に結構色々なことを考えていたように思う。


 そうこうしている内に感覚はどんどん短くなる。痛みが深呼吸だけじゃ逃がしきれなくなり、犬の威嚇のような声が出る。夫の腕に爪を立てて「いきみたい、いきみたい」と言うと助産師さんは「いいよ、いきんで」と答えた。先生の内診でバツンと音がして大量の水が流れ出て来た。破水だ。


 そこからはもう夢中だ。四つん這いで背中を丸め、自分のへそを見るCのポーズでいきみにいきみまくった。赤ちゃんの身体が産道を押し広げ、痛みが走った。だが陣痛に比べたら大した痛みではない。このいきみたいという欲求をまずは満たしたい。出産なんてやったことないのにちゃんといきむ感覚を教えてくれる身体すげー。お前の子を産んどるんじゃちゃんと見とけや夫。なめんじゃねえぞ。あーやばい今絶対ウ○コ漏らした。


 口からはうめき声しか出なかったが頭では結構色々考えていた。


 「彩華さん、赤ちゃんちょっと苦しいから酸素付けるね」


 いつの間にか呼吸が浅くなっていたらしく、酸素マスクがはめられる。シューシューと流れ込んでくる酸素は何だか他人事のようだった。


 12時。いきみたさは最大級に達する。ゆっくりゆっくりと赤ちゃんが外に出ようとしているのを感じた。助産師さんに「お母さん上手上手! もうちょっと!」と励まされ、渾身の力を込めると同時にズルンと何かが抜けていき、私の身体は仰向けにされた。


 ぐったりと天井を見つめていると、胸にぬるんとした何かが置かれた。咄嗟に「何ですかコレは? 」と聞くと、助産師さんは笑いながら「赤ちゃんですよ」と言い、それを見て夫は爆笑していた。時間は12時37分。陣痛が始まってから9時間半後の出産だった。


 出産前に提出していたバースプランでは、父親としての最初の仕事として臍の緒を夫に切ってもらうことになっていた。白い臍の緒に夫がテープカットよろしくハサミを入れるのをぼんやり見守りながら「ああ、産んでしまったんだな」と思った。


(ちなみに可能であれば胎盤を食べたいという希望は却下された。)


 赤ちゃんと対面して最初に抱いた感想は「可愛い」とか「生まれてきてくれてありがとう」とかそんなものではなかった。もっと重い「人間を生み出してしまった」という事実がずっしりとのしかかってきたような気がした。


 どうしよう。産んじゃった。もう逃げられない。そんな風にうちひしがれていた。


 その内、廊下で待っていた実母が分娩室に通される。「痛い痛い! 」という叫び声を聞いた後だったので「もう終わったの? 静かだったから分からなかった。よく声も出さないで我慢したな。」とお褒めの言葉をいただいた。自分では結構大きく呻いていたつもりだったのだが、意外とそうでもなかったらしい。


 このやり取りの間に赤ちゃんは私の胸の上で初めてのおしっこをし、同時に一生懸命乳首にしゃぶりついていた。そのいじらしい姿が面白可愛くて3人で笑った。


 赤ちゃんが身体測定で連れて行かれた後は、夫と実母に見られながら産後の処置をしてもらう。正直陣痛よりもこっちの方が痛い。血まみれの分娩着ははだけまくっていて、ほぼ裸の状態で股から血をバシャバシャ出したり、縫われたり、カテーテルで導尿されたり、拷問かと思うような時間だった。


 分娩の最中血を見て倒れる旦那さんもいるらしいのに、この地獄絵図の中嫌な顔もせず私のそばを離れなかった夫には感謝しかない。トラウマになっていないか若干心配ではあるが……。


 全ての処置とカンガルーケアが終わった後、実母と夫はそれぞれ帰路についた。私はと言うと、病室で他の赤ちゃんよりも一際大きな声で鳴き続ける我が子を抱いて強烈な情緒不安定に苛まれていた。所謂産後メンタルというやつだ。


 産後メンタルは退院して実家に里帰りしてからもしばらく続き、退院後1~2週間をピークに徐々に治まっていった。産後鬱、と言葉だけは知っていたが、まさか自分がそれに近い状態になるなんて思ってもみなかった。



~~~~~


 「陣痛と出産の痛みを乗り越えたら怖いものなんてなくなる。」


 初めて出産して思ったのは、割とそんなことはないということだ。確かに陣痛は辛かったし出産も大変だった。しかし痛いぞ痛いぞと散々脅されて恐怖が膨れ上がっていたせいか思ったより耐えられない痛みではなかった。気絶するほどというからむしろもっと痛いのかと思っていた。


 メンタルも別に強くなってはいない。職場に電話することすら緊張して汗が止まらなくなる根深いヘタレは一度の出産くらいで治ってはくれない。


 産後1か月は赤ちゃんを可愛いと思う余裕もなく過ぎていったが、3か月を迎えた今、笑い声をあげるようになった赤ちゃんが可愛くて仕方ない。日に日に大きくなり、出来ることがどんどん増えていく子供の成長を見るのがこれからの楽しみだ。


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