らりりるれれっ!

多ダ夕タ/ただゆうた

第1話 伝説の始まり

 この町のシンボルとも呼べる高層マンション。ビル群から飛び出したように高いそれは、話によると30階建てらしい。それに劣らない、巨大なものが突然現れた。ゴツゴツとした岩のような茶色の体。怪獣。それ以外に表す言葉が見つからない。時折、ぎぎ、と音を出しながら口を開き、赤い炎を一筋に出す。太い尾は周りの低い建物をなぎ倒し、怪獣を中心として、円状に更地が完成している。そして、その障害物の無い場所を、ゆっくりと地響きを鳴らしながら歩く。

 まるで特撮のような風景だが、そんな呑気なものではない。連日報道されるニュースでは、被害はかの大災害をも上回ったとか、もう対抗手段が無いだとか、絶望的な物ばかりだ。


 そこに、二人の救世主が現れる。


 魔女とでも呼ぼうか。桜色と晴天色のロリータファッションを纏った少女二人が、勇敢に怪獣に立ち向かった。

「行くよ、ブルーちゃん。」

「了解です。」

そう言いながら、二人の魔女は動き出す。その跳躍力は、人間が自然に出せるものではない。無事に原形を留めている建物を足場に、晴天色の少女が軽やかなジャンプをすると、怪獣の高さを越え、特大のカカト落としをしてみせる。桜色の少女は、大きな円と多角形を組み合わせた紋様を浮かべたと思うと、そこから光の線が矢のように飛ぶ。怪獣は不気味な音を鳴らしたと思うと、巨体をドリルのように回転させ、地面の下へ潜っていった。


 これが、伝説の始まりである。



 伝説は、その事件で終わらなかった。それから三ヵ月が経つ。その91日の間に、怪獣が現れた回数は、15回。六日に一度の頻度である。そして、二人組の魔女が現れたのも15回。怪獣が穴に潜ったのも15回。


 テレビやネットでは、様々な意見が発信されている。あの魔女は未来人だとか、あの怪獣は某国の兵器だとか。信じられないものもあれば、現実味を帯びたものもある。多くの動画や画像もあげられている。町が破壊される様子や、戦闘シーン。魔女に助けられた瞬間を撮影したものもあった。そういうわけで、二人の顔は周知されているのだが、どういうわけか素性は不明。正体は見た目通りの若者なのか、少女なのか、そもそも人間であるのか、それすらも分かっていない。様々な分野の専門家たちの知恵を合わせても、あの跳躍力や光の武器のメカニズムを解明することができない。三ヵ月経った今でも、魔女は謎の存在であった。

 ただ言えることは、たしかに魔女が存在すること。そして、人々が怪獣の脅威に怯えながら生きていることであった。

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