第2話

『夏芽(ナツメ)!あんた暇だったら少しは部屋くらい片付けなさい!』


俺の優雅な休日は、親のこの一言で粉々にされた。


「今度片付けるから」


そう言ってみたけど無駄だった。


親曰く、『片付けない奴がよく言う台詞』だそうだ。

抵抗しても返り討ちにあうだけ、と悟った俺は黙って掃除を始めることにした。


掃除が嫌い、というわけではないが、せっかく考えていた一日の予定が木っ端微塵になくなってしまったことに、少し苛立ちを感じていたのだ。


「どうせ片付けてもまた散らかるのに……」


半ばふてくされながら掃除をしていた俺は、ある物を見つけた。


「これは……?」


緑色の古ぼけた箱。

表面には汚い文字で『宝の地図ここに眠る』と書いてある。

記憶にないが、どうやら俺が書いたようだ。


「昔の俺ってほんと字が汚いな……」


あまりの汚さに苦笑いし、中を開ける。

埃臭い臭いと共に現れたのは、1枚の紙だった。

広げると辿々しい文字で『宝の地図』と書かれている。

その下には縦横無尽に引っ張られた直線と『-座』の文字。

星座の地図、だろうか。

眺めているうちに、徐々に記憶がよみがえる。


『これは地図だ!俺達の宝のありかを書いた地図なんだ!』


『そうだね。じゃあ、秘密だね。二人だけの、秘密の宝物』


はしゃぐ昔の自分に応える声。

隣で楽しそうに笑う、幼馴染みの声。

まだ、何も『無くしていなかった』日々の思い出。


「そっか、これは汐音と一緒に作った……」


完全に思い出した俺は、星座図を握り締める。

だが、すぐに肩を落とした。


「アイツが、覚えてるわけないよな……」


かつて秘密を共有した幼馴染み-汐音(シオン)を思い浮かべる。


この地図を書いたのは10年前。

俺自身が忘れていたことだ。

『あの事件』の前に起きた出来事を、彼女が覚えているはずもない。


だが、俺の体はすでに出掛ける準備をしていた。

掃除を放棄したい気持ちが半分。

秘密を彼女に肯定してほしい気持ちが半分。


「掃除は……また今度でいいよな」


後で親に怒られないように、ある程部屋の整理をしておく。


手には星座の地図を握り絞めて。

俺は、はやる気持ちを抑えて、彼女のいる海辺へと向かったのだった。

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