mei

八下

第1話 命:1[99999]

「あなたの余命は9999年です。」


先ほどまで医者のように見えていたおじいさんが、ヤブ医者のジジイに地位を下げるには容易な発言であった。

しかし俺が「そんなこと有り得ないだろジジイ!」と言うと「でも私は医者の免許があるんですよ」と免許を見せられ、本物の医者であることを理解した。

医者が言うのならしょうがないだろう。

そもそも医者という職業は、俺から見て天の上の70乗くらいの地位にて現界を見守っている職なのだ。信じるでしょう。

しかも帰りがてら車に轢かれ、先ほど通った病院に運ばれ、医者のおじいさまに「余命99939年だね」と言われれば信じるだろう。

そもそも轢かれても特になんともなかったのだ。救急車を呼んだのは青ざめた顔をしたサラリーマンだった。しかしこれで保険は下りるのだろうか。そっちの方が重要ではないだろうか。というか60年減ったのか。色々とびっくりするけれどそれが人生ってもんだろうな。


俺を轢いた車を運転していた男はおどおどした様子で俺を見ながら「すみません…すみません…大丈夫ですか…?」と聞いてきた。少し話を聞くと、マイホームを買ったばかりで妻は妊娠中であり、今は本当に支払いは辛いので後数年待ってくれ、とのことだった。流石に俺も鬼じゃない。命は後99939年あるけど、鬼ではない。多分、大方、人でもない。

俺はその気の毒そうな男に「いや、俺は大丈夫なんで!これでシュークリームでも買って奥さんにでも同僚にでもあげてやってください」とクールに、颯爽に言い放って財布を開き2000円をあげた。あげた後であれが俺の財布に入っていた額の90%を占めるものだったことに気づいたのはタクシーに乗ろうと病院の入り口で財布を開いた時だった。しょうがないから歩いて帰った。こんな日もあるだろう。

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