四. 最後の英雄譚
[反撃]
アリューザ・ガルド天頂から放たれた、まばゆい一条の光が冥王の居城に直撃、“
これは次元を超えたアリュゼル神族達の世界——すなわち“
(既知のとおりアリュゼル神族の力は摂理を超越しており、世界の破壊をもたらしかねないため、今回の一撃も彼らにとっては限定的な行使である)
こうして、神々と人間による
かつての“大暗黒紀”では千年以上、“黒き災厄の時代”でも三百年に渡り、冥王はアリューザ・ガルドを支配した。
今回は違う。かの“胎動の予言”より七十年余り。アリューザ・ガルドの住民たちは救国の英雄をただ待ちわびるのではなく、周到に準備を整えていたのだ。
しかし——アリュゼル神族からの攻撃は、同じくアリュゼルの一柱たる冥王ザビュールにとってさしたる損傷ではなかった。すぐさま冥王は拠点を“暗黒の城塞”ヴェカル・ケルティンクスへと移した。
一方、神ではない
英雄たちはこの好機を逃さなかった。
ここより“
◆◆◆◆
[先陣を切るは、ふた振りの剣を操る者]
――英雄イナッシュの再来が、軍勢を率いるだろう――
その名をイリーカ・イェンヒリエル。彼女こそが予言にある、冥王を討ち亡ぼす英雄その人である。
彼女は古きアル・フェイロス王国の末裔とも、イナッシュの生まれ変わりとも言われるが、実のところ出生は定かではない。だが彼女は間違いなく“運命”が選んだ子であり、比類無き能力と統率力、さらにカリスマ性を備えていた。加えてディトゥア神族の長、イシールキアの直々の加護を受けており、その権能は神にも並びうるものとなっていた。
光の帯の発動を、カイスマック島から満足げに見ていた彼女は、相棒である白龍に騎乗し、天高く舞い上がった。
イリーカは世界に告げた。
「機は満ちた、と忌まわしくもかの冥王は宣言し、世界は闇に閉ざされた。ならば私たちも同じく宣言しよう。機は満ちたのだ。我が名、我が命、ふた振りの剣にかけて天帝ヴァルドデューンに誓う。これより我らは総力を以て“
[聖剣と宵闇の剣]
ハーヴァンの予言にあるとおり、イリーカはふた振りの剣を自在に操る剣聖とも言える存在。彼女が振るう剣の名は聖剣ガザ・ルイアートと宵闇の剣ファランデュエル・レオズスという。
――そう、レオズスである。
“宵闇の公子”レオズスは長きにわたる諸次元の彷徨の果て、再び聖剣ガザ・ルイアートを見出した。冥王を倒し得るのは唯一、聖剣のみ。しかし、かの超越したザビュールはそれだけでは滅びない。
事ここにいたり、レオズスは意を決して自らを一振りの剣と変えた。それこそが宵闇の剣ファランデュエル・レオズスである。
[彼に付き従うは大魔導師]
――世界のすべてを知るただひとりの者が、大いなる奇跡を顕現させる――
予言とただひとつ異なるのは、英雄が女性であったこと、のみである。
白龍を駆る英雄イリーカは、大魔導師アレーヴ・グレスヴェンドと合流した。
アレーヴはフェル・アルム魔法学院の長。イリーカの育ての親であり師でもある。彼の生まれは月の世界であり、“赤の”ミスティンキルの血をひいている。
内に秘めた魔力は無尽蔵とも言えるうえ、世界の
[剣と盾たる“ダフナ・ファフド”]
――其は勇者の一団なり。人の心、人の命数を捨てたがゆえに、人の域を超えた者ども――
かつて“守人”と呼ばれた存在。もともとはただの人間であったもの。
だが“胎動の予言”以降は来たるべき暗黒の到来に向け、ただひたすら戦闘力のみを向上させ続けてきた。死をも恐れず修行、訓練に明け暮れる彼らはやがて、人としての心まで捨て去った殺戮機械と化していく。それだけではなく、能力の大幅増強を試すため、様々な秘薬を服薬する。その副作用により、彼らの寿命は短命のバイラルにあってさらに短いものとなっている。
“ダフナ・ファフド”の人数は減り続け、今や二百人足らず。しかしながらその力たるやまさに勇者と呼称されるにふさわしい者である。
首領の名はハールーン・イルビス。彼らは文字どおり、決死の剣となり盾となり、“
[超常なる英霊の騎士団]
――この一時のみ蘇りし
強者ども――彼らは生前にはアリューザ・ガルドで戦士として力を振るい、戦場で死んだ者たちである。
彼ら一騎当千の英霊たちを指揮するのは、ディトゥア神族のニーメルナフ。英霊の騎士団は揃って
さらに――
[未知なる力を持つ者達]
――神々すら知り得ぬ、
「これぞ“テクノロジー”だ!」
機械群を指揮するディトゥア神族のライブレヘルは興奮覚め上がらない。彼はアリュゼル神族、“力の”トゥファールの命を受け、この軍隊を託された。
「見よ! 今に全世界は“テクノロジー”で再構築されるであろう!」
未曾有の新たなる“力”は快進撃を続け、
◆◆◆◆
英雄たちの反撃からひと月も経たずして、この世界に顕現した“
残るは冥王ザビュールと彼の
人間は冥王を、聖剣でのみ傷を与えられる。しかしそれだけでは彼が滅することはない。英雄イナッシュがかつて為したとおり、打ち倒し、深い眠りにつかせたあと封印するほか策がないのである。
人間が冥王を討ち滅ぼすには――
彼と対峙したとき、“光”を魔導として発動させること。
同時に、“滅びのことば”を一切あやまたずに発動させること。
これらをなにがあっても継続させること。
ザビュールは物質界たるアリューザ・ガルドに顕現したが、物質界の
聖剣と暗黒剣を一つの剣のごとく振るうこと。
“光”と“闇”を一つところに束ねて両者を共存させること。かつ、聖剣のみの力を行使すること。
これら大矛盾が人の手によって行いうるのであれば、“運命”は世界の変革を認め、ここではじめて人はザビュールの肉体ではなく神核に
以上、奇跡とも言える事柄を余すところなく行使したとしても、いまだアリュゼル神と人間という覆しようもない歴然とした力量の差、器の差があるのだ。あとは“運命”のもと、英雄たちに任せるほか無い。
◆◆◆◆
[“
ついに英雄たちは冥王の下に辿り着いた。数多の
二者と冥王は共に語る言葉を持たない。もしかすると我々の知らない領域で論じあったのかもしれないが、ともあれ――英雄イリーカは、ふた振りの剣を構える。それにあわせて大魔導師アレーヴが瞬時に“光”と“破壊のことば”とを同時に発動させた。
時を同じくして、アリューザ・ガルド全土に轟音が響き渡り、暗黒に染まった空一面が眩く光り輝いた。世界は超常の様相を呈し――それから――
一瞬のことだった。あらゆる
しかし――忽然とその場に現れた、得体の知れない“負”の球体が、イリーカとザビュールを急襲、彼らは球体もろともいずこかへと消えてしまった。“
かくして、ハーヴァンの予言はここに全て成就した。
すなわち、英雄たちによって魔はことごとく討たれたのだ。“
また、最後にこうもある。
『世界は新たな変革の時を迎える』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます