老いてもなお

らお

第1話 友加里の思い出

 眩しい光と共に

 目が覚める


 女性がわたしに近付いてきて


「友加里さんおはようございます」


 あぁ…朝になったのねぇ


 えっと

 あなたは…


「咲ちゃんおはよう」


 ふふふっと笑いながら女性が

 わたしの顔を覗いて


「友加里さん、わたしは未来ですよ。」


 ぼんやりとした顔じっと見つめながら

 記憶はぼんやりから少しずつ霧が晴れたように

 明るくなる


「あ…ごめんなさいね。未来さんだったわね。おはようございます」


 私の目はもうぼんやりしか見えないから

 孫かと思って勘違いしてしまった

 いるはずもないのにね…


「友加里さん、朝ごはんになりますから起きましょう」


「未来さん…わたし朝ごはんはいらないわ、もう少し寝てたいの」


「友加里さん…昨日からあまり食べられていなないから、少しでもいいから食べましょう」


 まったくお腹が空かないの

 昔は朝ごはん食べなさいって言っていたのにね…


 ベッドが自動的にウィーンと音を立てて

 起き上がる


 ぼんやりとした世界を

 キョロキョロ見ながら

 窓からの世界を眺める

 窓からの世界もぼんやりとしていた


「さぁ…友加里さん!朝食ですよ」


 テーブルにトレーになった食事が

 置かれる


 食器を触ると

 冷たい

 スプーンで救ったものは

 どろっとしていて

 匂いもしない


 口の中に入れる


 冷たくてどろっとして

 何の味もしない…


 思わず手が止まる


「友加里さん、これも美味しいですよ」


 友加里さんが、スプーンで

 口まで近づける


「未来さん…いらないわ…」

「友加里さん、もう少し食べましょ」

「未来さん…わたしのことより他の人へ行ってあげてちょうだい」

「友加里さん…置いておくので…もう少し食べて下さいね…」


 そう言うと

 部屋から出ていく


 はぁ…


 なんなのかしら…

 このどろっとしたの…

 冷たいし…

 未来さんはこれが美味しいと

 思ってるのかしら

 仕方ないのかしら…

 未来さんみたいな介護する人も

 今は本当にいないから

 食事もレトルトって

 この前向かいの加奈子さん

 言っていたわね…


 ふぅ…とため息をつく


 昔、あの人と食べたお寿司が

 食べたいわ…


 あの人元気かしら…


 記憶が40歳のころのわたしに

 戻っていく


 すでにわたしは結婚をしていた

 子供もいて幸せな生活を送っていた

 仕事もしながら家庭を持ちながら

 目まぐるしい日々を送っていた時に


 あの人と出逢うことになる


 そこからわたしの人生が

 大きく歪んで

 そして…


 あの人のことを

 思い出す途中で

 わたしは眠ってしまった

 最近そんなことが多い


 次に目が覚めたときは

 大きな機械音が聞こえてくる


 あぁ…


 下の交換ねぇ…


 昔は人が交換してくれたオムツも

 今は機械が勝手に交換してくれる

 友加里さんのような介護の人は

 1日1人いればいいんだって

 隣の涼子さんが言ってたけ


 機械の手はわたしの意志を

 無視してあっちこっちに

 体を動かされる


 昔のわたしは

 こんなことされなくても

 …


 あの人との思い出が

 また蘇る


 あの人との出逢いは

 新人としてわたしの職場に

 やってきた時だった…


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