第46話 真実の扉
岸川は店から出てくる女性を待っていた。制服姿を見慣れていると普段着の角田は新鮮に見えた。地味な格好でもはっとするほどの美人であることには変わらなかったが。角田だけを信頼できると思ったのには理由があった。彼女は一連の事件の捜査にはまったく関わっていなかったことと潔癖すぎるほどの正義感の持ち主であることだった。正義感の強さゆえに組織内で時々浮いた存在になることも岸川とどこか似ていた。直接言ったことはないが、似た者どうしが惹かれる理由かもしれなかった。
岸川は角田がアパートを出て、スーパーまでの道のりをじっと監視した。尾行者がいないことを確信すると小さく安堵の息をもらした。肩にかけた買い物バックは食材で膨らんでいた。
「角田」岸川は背後からそっと声をかけた。突然声をかけられ、振り向いた角田の顔には不安の色が浮かんでいた。それはそうだろう。岸川は帽子を被り、サングラスにマスクまでしていたから人相がまったく分からなかった。
「俺だ。岸川だ」角田の緊張が一瞬で緩んだのが分かって、岸川は嬉しかった。
「一体、今までどこで何をしていたの」「歩きながら話そう」そう言うと二人はゆっくりと並んで歩き始めた。岸川は角田のアパートを出たからの行動と起きたことを包み隠さず話した。首を吊られて死を覚悟したこと話した時には角田は涙声になっていた。岸川はハンカチで角田の流れ落ちる涙を優しく拭った。
角田の話から大山刑事殺害事件については、警視庁が極秘で捜査しているらしかった。さらに不思議なことは無断欠勤している岸川が休職扱いになっていることだった。
「俺は容疑者になっていないのか」「違うと思う。署長からは、もしあなたから連絡があったら、誰にも言わずに直接知らせるようにと命令されている」
「指名手配もされす、所轄ではなく警視庁が直接殺人事件の極秘捜査とは異例すぎるな」「あなたはこれからどうするつもりなの」
「角田、頼みがあるんだ。畠山義継の所在を調べてほしいんだ。相当な高齢だから生きているかも分からない。生きていれば、一連の事件の隠された真実を聞き出すことが出来るかもしれない。だが俺に協力したことが知れれば、君の立場が危うくなると思う」
「分かったわ。調べてみる」角田の頬を濡らした涙はすっかり乾いていた。
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