魔王がリスキルとか卑怯すぎ泣いた

ちびまるフォイ

リスキル:リスポーンキル。復活直後に倒すこと。

「……こ、ここは」


俺はたしかトラックにひかれて死んだ。

でも、この風景はまるで異せk――


光ったのだけは見えた。

次の瞬間に自分の体は木っ端微塵に吹き飛んでいた。


「えっと、転生番号4番の方。カウンターへどうぞ」


「ちょっと神様! どうなってるんですか!!

 異世界に到達するなりぶっ殺されたんですけど!?」


「はぁ、でも戻れてよかったじゃないですか。

 転生後3秒以内に再死亡した場合は保険適用されて

 こうしたまた転生できるわけですし」


「こっちは早く異世界の女を手篭めにして

 それはもう描写がためらわれるようなことをしたいんですよ!」


「また転生すればいいじゃないですか」

「無論ですとも!!」


ふたたび転生した。

目を覚ますと、周囲は草原でのどかな風景が――


ボーーン。


などと、周りの光景に目がなれるよりも早く

強烈な炸裂魔法で転生者の体は粉微塵に吹き飛んだ。


「転生番号10番の方。カウンターへ……」

「コラァァァァ!!!」


「ちょっと、割り込みは転生違反ですよ。

 どうしたんですか、そんなに鼻の穴を膨らませて」


「どうもこうもないですよ! またですよ!

 また魔王が転生地点に待ち構えてたんですよ!」


「一応、チートは支給しているはずですが」


「使う間もないんですよ! 奴ら、転生して目が覚めるまでの

 ブラックアウト時間を利用して攻撃してくるんですよ!

 なんて卑怯なやつらだ!!」


「まぁ、魔王というくらいですしね」

「正々堂々戦って死ねよ!!」

「なんて勇者都合な……」


すると、待合室にいた転生者たちも手を上げ始めた。


「私も、転生したとたんに攻撃されました」

「僕もだ。これじゃなんのために転生したのか……」

「転生地点に待ち伏せとか対応できないよ」


「待てよ。みんな聞いてくれ。俺たち一斉に転生したらどうだ?

 そうすれば、一度に全員がやられることはないだろう」


「「「 それだ! 」」」


「あ、ちょっと! 転生券を勝手に取らないでくださぃ~~!」


「「「 いくぞ! 」」」


転生者たちは一斉に異世界へと向かった。

唯一の弱点である「目が覚めるまでの無防備な時間」を狙う敵側も

こうも大量にやってくる転生者には対応できまい。


転生者それぞれが思い思いの場所に転生すると。


「こ、ここは……?」


もはや異世界挨拶とも言えるセリフを放ったときには

すでにその体は宙に舞い即死していた。


ふたたび転生待合室に戻ったときには、

さっきまで意気揚々と転生していた人たちが大集合していた。


「そんな馬鹿な! 全員転生に失敗したのか!?」


「ありのまま起こったことを話すぜ。

 転生しようと思ったらすでに死んでいた。

 なにを言っているかわからねーと思うが俺自信もまだわからねぇ……」


「魔法発動もあんなに早いものなのか!?」


異世界ではじまるスーパーイージーモードでの

ハーレムバカンスライフを求めていたのにこの逆境。


転生者たちはチートで解決できない状況に陥るや

パニックになってしまい自頭の悪さをいかんなく発揮した。


そのとき、転生者のひとりに電撃走るッ……!!


「この中に……内通者がいるんじゃないか……!?」


「た、たしかに! だいたいおかしいんだよ!

 俺たちの着地地点に待ち受けるなんて芸当!」


「それなら、復活地点に魔導地雷仕掛けられていたのも説明がつく!」


「最初から我々の転生情報など筒抜けだったんだ!!」


「「「 犯人はどこかにいる!!! 」」」


サスペンスドラマのような強烈なサウンドがかかった。

しかし、彼らは転生者。並外れた推理力も犯人を名指しできる勇気もない。


「いったいどうすればいいんだ……!

 内通者がいるとわかっていても、なんら対策ができないなんて……!」


「落ち着くんだ。内通者でも把握しきれないように

 フェイントをかけまくればいいんだよ」


「フェイント?」


転生者のひとりは転生チケットを半分までちぎった。

その体は異世界へ半分だけ転生して消える。


「これは……!」


「半分転生さ。こうしてチケットを半分だけちぎって、また戻す。

 すると体は元通り。また待合室に戻れる」


「そうか! わかったぞ! それでフェイントをかけまくって、

 再びみんなが同時に転生すれば、相手を撹乱できるわけか!!」


「そうだ! 奴らがレーダーかなんだか知らないが

 こちらの転生位置を特定できるとしても、

 フェイントをいくつも行えば浮足立つことは間違いない!!」


「みんな! 半転生の準備をしろ!!」


転生者たちは生前あれほど嫌っていたはずの体育会系のノリで、

転生チケットを準備すると半転生を何度も行なった。


体半分だけ転生したかと思ったら、また戻る。


何度も何度もフェイントかけるし、いつ転生するかもわからない。

どの転生がフェイントでどれが本転生なのか、

お互いにわからなくなったころに各自ランダムに転生していく。




「こ、ここはいったい……?」



転生者が目を覚ますと、そこは見たこともない自然の光景。

今、初めて見たようなリアクションもそこそこに周囲を見渡す。


「よし、魔法反応はない。敵影なし。地雷もない」


転生キルを狙う魔王を警戒したが安全であることを確認すると、

転生者はガッツポーズをとった。


「やった!! やったーー! 転生成功だ!!」


ついに魔王を出し抜くことに成功した。

転生さえしてしまえばもう安心。


あとは生前なし得なかったキャッキャウフフなリア充ライフを

ラッキースケベのスパイスを交えながら満喫するだけだ。


「キャーー!」


街の方から時報を知らせるサイレンのように女性の声が聞こえた。

人通りの少ない路地に向かうと、そこにはいかにもな悪党がエルフ女を押さえつけていた。


「グヘヘヘ。そんな服を着て、そんなけしからん体をして。

 本当はこうなることを期待していたんだろう?」


「やめてください! 放して!」



「 や め な い か 」



転生者はいい男の顔をしながらさっそうと登場。

ここからの展開は桃太郎よりも絵本で読んで刷り込まれている。


「なんだァ。兄ちゃん。これからお楽しみだってのに。

 こいつは奴隷なんだ。どう扱おうと俺サマの自ゆ――」


「燃えろ《バーン》」


悪党を指一本で消し炭にした。

外道にはなにをしても許されるのだ。


目をうるませた巨乳のエルフは子犬のように抱きついた。

その柔らかな感触が背中と挟まれた腕に伝わる。


「ああ、旅の人! ありがとうございます!」


「フヒッ。いえいえ、そんな。当然のことをしただけだよ」


「どうか、教えてくださいませんか」


「ああ、名前ですか? もちろんですよ。

 俺の名前はシュヴァルツ・アイゼンブルグ。

 二つ名を、漆黒光ダーク・シャインという流浪の用心棒さ」


かつて書き上げていた理想の設定をひけらかすと、

奴隷エルフはふるふると顔を横にふった。


「いいえ、知りたいのは名前ではないんです」


「名前じゃない?」


「もう3秒はたちましたか?」


「え? そりゃもう……1分くらいは経ったんじゃ――」



次の瞬間、転生者は至近距離の魔法で消し飛んだ。

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