征服するだけの魔王に価値はない
ケイキー
第1話 世界征服など、無理である
「世界征服」。
あまりに甘美な響きである。
すべての国を支配下に置き、統治権を得て、金の動きをあやつり、人を思い通りに動かし、好きなものをつくり、好きな人に囲まれ、好きなように暮らす。
幼い頃から、そんな夢を見ていた。
偶然にも魔王の血筋に生まれたため、それも可能な範囲の夢だったはずだ。
しかし、そんな希望は、18歳のころには、とっくに打ち砕かれていた。
魔王家は、徐々に没落しだしていたのである。
10歳のころ、先代の魔王の新規事業が失敗した。
11歳のころ、事業の失敗を戻そうと、先代は、税率を高くした。
12歳のころ、税率を高くしたせいで、領土内で反乱が起こった。
13歳のころ、勇者が力をつけてきて、一度戦争に負けた。
14歳のころ、先代の息子(つまり自分のことだが)が、反抗期に入った。
15歳のころ、領土が縮小しだした。
16歳のころ、父親(先代の魔王)と、母親が離婚した。
17歳のころ、勇者との戦争でいよいよ決定的な敗北を喫した。
そうして、公私とともに疲弊し続けた父、先代の魔王は、僕が18歳のころにお抱えの主治医にうつ病だと診断され、僕に家督をゆずった。
かくして、僕、オーディナリー・エンペラーは、18歳にして魔王家の当主となったのである。
しかし、この状況で、なんの夢が見られようか。
最盛期には世界全体の50か国のうち、20か国を支配していた魔王家は、父の代のうちにその領地を、5か国にまで減らしていた。
対して、父の宿敵であった勇者は、その領土をまったくの0から10か国にまで伸ばしていたのである。しかも、まだ若く、領地内での人望も篤いと言われる。
勢いをそがれた者と、勢いに乗る者。この違いは大きい。
加えて、自分の能力の凡庸さは、この18年のうちに嫌というほど思い知らされている。
運動はできず、歌は歌えず、絵も描けず、人見知りで、会話も下手で、唯一の取りえと言えば勉学が好きなことぐらいであるが、あくまでも学ぶことが好きなのであって、ずば抜けて勉学が得意なわけでもない。
大体、魔王に勉学なんかできてなんの意味があるのだろう、とも思う。
「魔王」なんて言うのだから、魔法ができればいいのではないか、という話ではあるが、この世界はフィクションとは違って、それほど大きな魔法があるわけではない。
せいぜい、日常生活が便利になるくらいの魔法しか存在しないのだ。
こんな状況で、家督を継いだ。
世界征服など夢のまた夢である。
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