俺は陰キャラ、別に友達なんて羨ましくない······。

刹那理人

第一章 彼と彼女の青春は始まる。

第1話 授業後、当然のように休み時間はやって来る。

 ――授業。

 俺はそれをもう何度も受けてきた。自分の将来のためということも分かっている。だが、やっぱりつまらない。

 数学教師がすらすらと黒板に数式を書いているが、その数式を求めたことでどうなる。

 そう、どうもならない。

 勉強というものは所詮、進学するためのものとしか俺は認識していないのだ。

 そして俺は青春を謳歌しない者として高校生活に退屈している。


「おい、陰仲!」


 俺はなぜか数学教師に強い口調で呼ばれた。


「はい?」


 疑問符を浮かべると、数学教師の顔がどんどん険しくなっていく。

 これはまずい。


「さっきから呼んでるだろ!」


 はて? 俺には呼ばれた記憶が無いのだが。それとも俺が聞いていなかっただけなのか。


「早く前に出てきて問題を解け」


 その問題とはさっき数学教師が黒板にすらすらと書いていた数式についての問題だ。どうやらxの値を求めれば良いらしい。

 だが、自分で言うのもなんだが俺たちが通う、種子たねが高校はなかなか偏差値が高い。俺はそこにボーダーラインぎりぎりでかろうじて合格出来た。

 そんなこともあって、一筋縄ではいかないような問題だった。

 俺はさっき数式を解いても『どうもならない』という異論について考えていたので、問題の方は全く考えていなかった。

 渋々と椅子から立ち上がり黒板に向かったのだが······。

 ――待て待て待て、なんだよ、この問題。

 全くわからない。

 逆に解る方がおかしい。

 チョークを黒板に「とん、とん」と叩きながら問題を考える。その時、俺の額にはかすかに冷や汗が出ていた。


 二十秒程経ち、教室には俺のチョークの「とん、とん」という音がいまだに響いている。

 クラスメイトからの注目の眼差しを受けることは久しぶりだから、いい加減席に戻りたい。

 そんなことを思っていた時、それが数学教師に伝わったのか、


「もう、席に戻っていいぞ」


 と、ため息をきながら呆れた口調で言ってくれた。もっと早くそう言って欲しかった。

 俺が安堵あんどし、きびすを返したところで教室には嘲笑が響いた。少し恥ずかしい。この高校だと劣等感というものを味わってしまう。すなわち俺は種子高校の劣等生なのだ。

 そんな中、俺は席に座り、唯一嘲笑せず、授業中ラノベを読んでいる奴に目を向けた。

 彼女の名は曇中くまなか優美ゆみ

 いつも休み時間になると俺と同じ行動をしているクラスメイトだ。


 その行動とはもちろんラノベを読むこと。

 互いに友達の人数はゼロ人である。

 だが、なぜラノベを読んでいる彼女が指名を受けず、俺が受けることになるのか。

 その答えは単純なものだった。


 ――彼女は成績優秀だから。


 毎回毎回、テストでは学年一位を獲り、教師からの期待度はマックスだ。

 さらに容姿ようし端麗たんれいという武器までも持っており、男性教師が担当している教科の内申点は必ず五だ。

 依怙えこ贔屓ひいきすることはあまり好きじゃないのだが、彼女の容姿ならば分からないこともない。


「じゃあ優美頼んだ」


 ラノベを授業中に読んでいる彼女に数学教師は注意をしなかった。

 それどころか『頼んだ』だと、俺の時は『解け』って命令形だったのに。


 恐らくこの差は俺と彼女についての数学教師の価値観の差だろう。

 俺はこの学校でテストの順位は下から数えた方が早く、容姿は普通。

 一方彼女はずっと学年一位。そして容姿端麗。つまり彼女は才色さいしょく兼備けんび

 このことからやはり数学教師も男なので、彼女に対する価値観は相当高いものなのだろう。


 彼女はそんな数学教師の期待に応えるように黒板に答えを書いていった。 その答えは単純ではなく、複雑であった。書いている途中経過でもそれが分かるぐらいだ。

 こんな問題をこの俺に解かせようとした数学教師を俺は睨むが、彼は俺に見る目も寄越さない。

 なんか腹立たしい。

 彼女が答えを書き終え、踵を返し席に戻ると、


「さすが優美! 正解!」


 数学教師は彼女を激励げきれいしていた、俺の時とは打って変わった表情と態度で。

 この差は到底俺には埋めることが出来ない。

 勉強はまだ努力すればどうにかなるが、容姿については別なのだ。


 彼女は席に腰を再び掛けると、再びラノベを読み始めた。

 良くも、授業を真面目に受けず学年一位をキープ出来るものだ。

 俺の頭と取り替えて欲しい。


 その後、特に俺にはなんの支障を与えず、授業は無事終了した。それと同時に休み時間は当然、やって来た。

 周りはガヤガヤと教室内で騒いでおり、この年にもなると当然、グループというものが決まっていた。もちろん、俺はなんのグループにも入っていない、まず入ることが出来ない。

 俺の高校生活は始まり早々、神様からぼっちと決められていたのだと思う。


 初めての高校生活から俺はインフルエンザに侵され高校を欠席した。神様がそうさせたのだろう。それが俺には今までなかったぼっち生活の始まりであったのだ。

 ラノベを休み時間には読み、体育などの授業のペア作りでは毎回のように一人取り残された状態で高校二年生までの月日を過ごした。

 この選択が正解か不正解か未だに分からない。


 神様が高校始まりと同時にインフルエンザに侵されるように設定したのならばこの選択は正解だろう。だが、実際こんな高校生活よりも友達とアニメやラノベなどの話題で騒いでいた中学生活の方が楽しかった。

 だから自分的にはこの選択を不正解だと思うのだ。


 神様の考えと俺の考えが混ざり合い、最終的に正解か不正解かが分からなくなっていた。


 そして、分からないまま俺は高校生活を過ごしてきたのだ。だが今日、その選択が正解か不正解かが明確になるかもしれない出来事が起きた。


「ねえ、陰仲」


 ビクッとしながらもラノベは閉じず、持ったまま俺は恐る恐る顔を上げると、彼女と目が合った。

 俺に話し掛けて来たのは、才色兼備で授業中にラノベを読んでいる、友達が俺と同じゼロ人の曇中優美であった。

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