第29話 オーガ
俺がオーガに魔剣を叩き付ける。
何で出来ているのか、オーガは手に持った棍棒でそれを受け止めた。
飛び上がった蘭華に斬りつけられて、オーガは肩から炭になった血を吹きだした。
飛び越すときに蘭華はオーガの首にチェーンソードを巻き付けている。
チェンソードは切っ先をぶつけるか、もしくは巻き付けて引っ張り切断する武器である。
その巻き付けたチェーンソードを、オーガは素手で掴む。
まずいと思った時には、蘭華はチェーンソードの柄を手放していた。
武器は失ったがそれで正解だ。
いつまでも持っていたら、地面に叩きつけられていただろう。
有坂さんのマジックアローがオーガの胴体に三本刺さる。
俺は殴られそうになって、いったん距離をとった。
体勢を立て直してアイスランスをオーガの顔面に向けて放ち、それを相手が棍棒で受けたところで、胴体に向かって魔剣を振るった。
棍棒を持っていない左腕でカウンター気味に殴られるが、砕けた顎は剣と魔法の力によってダメージを回復する。
オーガは足と胴体が離れて地面に転がった。
俺の首が吹き飛ばなかったのはレベルのおかげだろう。
もう少しレベルを上げておけば良かったと、少し後悔したくらいには強い相手だった。
倒したと思ったら次は二体でやってくる。
「私が引き付けよう」
有坂さんがマジックアローを放ち、ヘイトを自分に向けて一体を引きはがした。
そのまま有坂さんが鬼ごっこをしているうちに、俺と蘭華で一体を倒す。
蘭華がダメージを与えることよりも、隙を作ることに専念してくれたおかげで、俺の魔剣がオーガの頭を潰した。
そして有坂さんが連れてきた残り一体を、三人で倒した。
「助かりました」
「私がダンジョン教室で受けた授業も、そう馬鹿にしたものじゃないだろ。自分が相手より優れている部分を探して利用するんだそうだよ。今の場合、オーガより足が速いことを利用したわけだね」
蘭華も有坂さんも動きがよくなってきたなと感慨深い。
予想外の強敵が出て来たのに、臆することがないのもありがたかった。
まだ有坂さんは敵にまともなダメージを与えられる魔法が一つしかないし、蘭華は攻撃力が全く足りてないのに、出来ることでしっかりと貢献している。
ちゃんとした武器と魔法さえあれば、確実に戦力になる動きだ。
もう少しオーガで足止めされるだろうが、それを越えたら宝物庫だ。
宝物庫の周りだからなのか、歩いていたらまた高エネルギー結晶体を発見した。
二人に見せても、もはやそれほどの驚きは無いようだった。
一番先行しているからこその利益である。
以前に俺が見つけた奴も、小さいながら売らずにまだとっておいてある。
まだ買いたいものも売りに出ていないからと、俺が預かることになった。
その後もオーガの討伐を続けて、50体ほど倒したところで魔光受量値が帰るべき数値になってしまった。
ここまで来てしまうと、帰り道もかなり長い。
走って帰ることになるのだが、障害物が多くて大変だ。
蘭華は革の服が蒸れると言って愚痴っている。
一層へ通じる坂道を上り、ハイゴブリンの地帯に出ると、そこで狩りをしているチームに出くわした。
いきなり現れた俺たちに驚いたようだったが、俺の顔を確認すると軽く挨拶してきた。
もうここまで進んだチームがいることに驚きである。
装備がよくなってダンジョンに居るだけで受ける魔光は誤差レベルになり、休憩で体力とマナを回復しながら敵を倒している。
見ていると、魔弾やマジックシールドの展開が異様に速い。
たぶん俺の想像もつかないほどスキルレベルが上がっているのだろう。
今ハイゴブリンをやっているチームには、ヒールの魔法さえあるようだった。
先行していたチームの中には、高エネルギー結晶体を見つけたことでダンジョンに来なくなったチームもある。
だから前線組が入れ替わることも珍しくない。
最近ではアイテムや装備が安くなり、第二次ダンジョンブームと言われるほど探索者が増えている。
ダンジョンを出て更衣室で着替えを済ませる。
外に出ると、取材やらインタビューなどを色々と求められるが、すべて断ってホテルに帰った。
最も深くまで踏破した探索者として、有名になりすぎた。
海外で軍隊を使って攻略競争しているような状況だと、命を狙われはしないかと心配になってくる。
一番最初に新しい地帯に入るのは大きな優位性があるのだ。
当然ながら海外でも、二層に入ったという話は聞こえてこない。
休憩もなく敵を倒しているのだから当然なのだが、麒麟を手に入れた奴ならもっと奥に行っていてもおかしくない。
そいつの情報がないってことは、かなり大きな組織に極秘にされているという事だ。
やはりあいつは一般の探索者ではない。
次の日は協会に呼び出された。
あの京野のチームも全員が揃って来ていた。
ある程度の実績がある全員が呼び出されたはずだが、集まったのは50人程度だ。
また犯罪者でも捕まえさせられるのかと思ったら、北海道のオーク狩りだそうである。
それを聞いた途端に半分ほどが帰ってしまった。
結局はまた俺のチームと京野の赤ツメトロくらいしか残らない。
自衛隊の12パーティー規模のチームも参加するそうだ。
「今残っていただいた方々が東京班という事になります。自衛隊班がサポートしますし、危険はないように配慮します。回復クリスタルについても、協会から配布されます」
自衛隊所属のパーティーは、そっちだけで組んでやるようだ。。
しかしそうなると、東京班のメインとなるのは、京野が率いている女しかいないチームである。
「オークなんて倒せるのかしらね」
「俺たちなら余裕だろうけど周りの奴らはどうだろうな」
レベル20くらいで霊力一万もあればソロでも倒せるはずだ。
しかし、そのラインを越えている奴がここに居るとも思えない。
なんせ蘭華や有坂さんが最近になって越えたラインである。
チームとしては俺の霊力が4万あるから問題ない。
周りはどんなもんだろうと思って、手近にいた奴に聞いてみる。
「はっ、はい。チームふなっしぃ、リーダーの小田です。レベル14、霊力5千です」
こんな見たこともないヤツまで俺のことを知っている。
どんなうわさが広まっているのか知らないが、小田はあきらかに緊張で言動がおかしくなっていた。
聞いてもいないことまでペラペラと話し始めた。
船橋のチームという事だが、探索者登録した頃の相原くらいのレベルである。
まあ4人もいるから、一匹くらいなら倒せないこともないだろう。
それにしても、地名をチーム名に入れるのは流行っているのだろうか。
ならば赤ツメトロは赤羽かどこかのチームだったのだろうか。
今では女性だけのチームというのが受けて、かなりの大所帯になったそうである。
日本中に支部があり、手厚い支援が受けられるそうだ。
京野に聞いてみると、平均レベルは高くないが、霊力は高めだった。
「な、なあ。アンタ、あの講習会で誰かを血だるまにしてたか?」
「いや、全く心当たりがない。というか、お前はあの場にいただろ」
「そ、そうだよな。なんかそういう噂が広まってるんだよ」
自分から話しかけてこないと思ったら、そんな噂を信じていたようだ。
京野と話していたら、自衛隊の人に呼ばれた。
ついていくと会議室のような部屋に案内される。
「自衛隊のチームからも伊藤さんの噂は上がっています。出来れば今回の討伐作戦で伊藤さんのチームを中心に作戦を立てたいのですが」
「三人しかいないチームですよ」
「それでもソロで自衛隊所属のチームよりも奥まで行っていますよね」
「あの奥にはゴーレムみたいな簡単に倒せる奴がいるんですよ」
「それはいい情報を聞きました。後で報告させてください。現地ではどうしても強いパーティーの力が必要になる場面もあるかと思います。そのために必要なんです。請け負ってもらえませんか」
まあ端っこを割り振られて、ろくにオークを倒せないというのよりはいいだろうか。
でも突撃してくれなんて言われても困りものだ。
今までの行動から見ても、オークの行動パターンはかなり複雑なものだ。
「砦を攻めることになりますよね。いったいどうやって攻めるつもりですか」
「詳しいことはまだ決まっていませんが、砦を作っているのは地球の木です。ですから今のところナパーム弾で焼き払えばいいだろうという事になっています。ナパームなら生木だったとしても燃やせますからね。特に障害になるとも考えていません」
確かに地球の木であれば、ファイアーボールでも簡単に灰にできるかもしれない。
しかし、更地になったらなったで敵が集まりすぎて危険という事も考えられる。
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