第26話 麒麟





 ヒョウに有坂さんの魔弾が命中し、相手が怯んだところに俺の攻撃が入った。

 初めて連携らしい連携が取れたような気がする。

 これがまさに俺がやりたかったことだ。

 その後続は、蘭華のファイアーボールで火に巻かれているところを、俺が薙ぎ払った。


 しかしまだ三人でやるには敵が弱すぎるのか、慣れてきたら簡単になりすぎる。

 それでも二人の様子を慎重に見ておかないと無理をさせ過ぎることになるかもしれない。

 ゴリラがかなり頑丈そうな革の鎧をドロップしたので、二人に装備させた。


「動きづらいわ」


 動きが制限されるくらいじゃないと、この手の鎧は急所を守り切れないのだ。

 せっかく俺が出したヘッドギアを装備しているのは有坂さんだけである。

 蘭華は髪が邪魔になると言い、俺は視界が塞がれるのが嫌でつけていない。


 途中で有坂さんのスタミナが切れて休憩を挟み、さらに探索範囲を広げた。

 今のところ、俺と蘭華のコンビはうまく敵をさばけている。

 蘭華は斬撃を飛ばす剣でチクチクやってるだけだが、まだ攻撃は受けていない。


 有坂さんも複数に攻撃できる強みを活かしている。

 脇から攻撃されると、敵は嫌がって気がそれるから、それだけでもかなりの効果がある。

 多少攻撃を受けていても、攻撃さえ入れば俺は体力を回復できる。


 とにかく俺は蘭華の方に攻撃が向かないように注意しながらやった。

 何度かゴリラの長い腕が蘭華に向かったが、それはちゃんとかわせている。

 そして順調に狩りを続けて昼飯になった。


 天幕の中にいれば魔光の影響は受けない。

 なので何時間でもいられるわけだが、それによって蘭華の主張で昼休憩は長めに取ることになってしまった。

 今日は恐竜から出た肉でシチューを作ると言っている。


「才能があるのはわかったわ。だからといって無謀なことをしているのに変わりはないじゃない。剣治の戦い方は真っすぐすぎるのよ。攻撃をよけようともしてないわ。見てる方はハラハラするのよ」


「ハラハラしてるのは、こっちの方だよ。レベルがあるんだから、あの程度攻撃でどうもならないんだぜ。魔法ですぐに回復できるんだ。俺の方が経験があるのに、どういう立ち位置から俺に指図するんだよ」


「指図じゃなくて、心配と言うべきじゃないかな」


 見かねた有坂さんが口を挟んだ。


「いいえ、私は心配なんてしてませんよ」


「ほら見てください。こいつは昔から親分風吹かせるのが得意なんですよ」


 飯ができるまで横になっていようと、天幕の中にある絨毯の上で横になった。

 めちゃくちゃ毛足の長い絨毯で、マットレスなんかよりもよっぽど柔らかい。

 こんなに居心地がいいと、さすがに売る気にはなれなくなってくる。


 ゆっくり休憩できるこの天幕は二人からの評判もいい。

 地上にいるのと同じで、ゆっくりだが魔光受量値も下がる。

 こんなものが山ほどあるのだから、早いところ宝物庫に行きたいものである。

 次に宝箱が出たとして、類似アイテムが出るのが一番の外れだろう。


 昼飯が出来上がるかという頃、外で人の気配がした。

 俺は外の様子を見てくると言って天幕を出ると、音がした方に向かう。

 その先では片腕を失った男が、息も絶え絶えに岩陰で身を隠していた。


 周りを感知のスキルで探るが、特に気配は感じない。


「どうしたんだ」


 俺が声をかけると、男は短い悲鳴で答えた。

 落ち着くまで待って、傷口を縛っていた上着を切りオレンジクリスタルを二つほど砕いてやった。

 なくなった腕さえ体力が戻れば元通りになる。


「アンタ、ここでなにしてるんだよ」


 男が怯えた声で言った。


「モンスター退治だよ。そっちはなにしてるんだ」


 男は体に入れていた力を抜いて息をついた。

 なにかに追われていたのか、怯え方が尋常ではない。

 通常、モンスターはそこまで執拗に追いかけないはずだ。


「おっ、俺は変な言葉を話す奴に襲われたんだ。仲間は全部殺されちまって、それで仕方なく下に降りる通路を見つけたから降りて来たんだ。強いモンスターがいる場所なら追って来れないだろうと思ってさ」


 男の話は穏やかではない。

 外国の軍隊が入り込んでいるという噂はあったが、それだろうか。

 しかし、外国籍ではダンジョン協会に登録は出来ないはずだ。


 外国人がダンジョンに出入りなんてしていれば、必ず誰かに止められる。

 普通なら入り込めるはずがないから、ただの噂だと思っていた。

 世界中のダンジョンが中でつながっているとはいえ、今の段階で他の出口まで行ける奴は絶対にいないはずだ。


 ダンジョンは入り口から離れれば離れるほど敵が強くなる。

 それこそレベル100かそこらで突破できるようなものではない。

 海外のダンジョンでレベルを上げた奴が、日本のダンジョンに潜り込んだという事だろうか。


 俺たちは昼御飯だけ食べて、男を地上に送っていくことにした。

 俺が暗躍のローブで偵察してから移動したので、見つかる危険はない。

 外に出ると、ダンジョンの周りに人だかりができて、なにやら騒いでいる。


 自衛隊の人まで出て来ていたので、俺は男を保護してもらうことにした。

 この男が嘘をついているという可能性もなくはない。

 自衛隊の人に詳しい話を聞くと、麒麟のようなモンスターに跨った人が、ダンジョンの入り口から西の方に飛び立っていったという話である。


 それは間違いなく、厩舎に入っていた使役魔獣がドロップしたに違いない。

 大図書館の知識の中にも、証言に一致するものがある。

 海くらい簡単に渡れるような奴だ。


 それに乗ってやってきて、ダンジョン内で高エネルギー結晶体か何かを探していたに違いない。

 使役魔獣があれば敵を倒させることもできるし、逃げるにしても簡単だ。

 ヘリや戦闘機が出て来たって、レーダーにも映らないようなものを肉眼で追いかけることなど出来ない。


 自衛隊の人も、海外のダンジョンから出たものを悪用しているのだろうと話していた。

 まだ何人殺されたかもわからないそうである。

 協会に併設された宿舎に連れていかれ、俺が事情聴取されていたら、自衛隊のパーティーが帰って来て報告を聞くことができた。


 彼らも襲われ、相手に手傷を負わせてたものの逃げられてしまったそうである。

 魔法が当たったら、相手は一目散に逃げて行ったそうだ。

 たぶん高エネルギー結晶体を探して、他国のダンジョンの未踏破地域を探りにでも来たのだろう。


 踏破された地域では発見することの出来ないアイテムだから、これだけは広く探索することに意味がある。

 この事件は、その日のニュースにもなった。

 死者は4名、行方不明者となったのは2名だった。


 死者は生き残った男の証言によるもので、行方不明者も生きてはいないだろう。

 行方不明という事は痕跡が見つからなかったという事だから、アイテムボックスに入っていたアイテムは持ち去られたのだ。


 いくら騎乗魔獣を手に入れたからといって、やり方が強引すぎる。

 騎乗魔獣があれば、それを使って金を稼ぐことだってできるだろうに、どうして高エネルギー結晶体に執着しているのかわからない。

 裏に大きな意志のようなものを感じる。


 他国のダンジョンを荒らすなんて、国際問題になりかねない事だ。

 ダンジョンからの得られるアイテムに関しては、どこの国も他国には譲りたくない。

 日本では初期にダンジョンで大量の死者を出してしまったから、責任問題の起こる可能性がある国家主導でのダンジョンの探索がやりにくくなっているだけで、海外では普通に専門家を育てて管理している。


 国際問題になることさえ恐れていないというのなら、高エネルギー結晶体を軍事転用するための国家政策か何かだろうか。

 だとすれば中国あたりの軍隊が、民間から出た使役魔獣を買い取って使っている可能性もあるんじゃないかという気がする。


 海外では国家のサポートを受けたような探索チームが組織され、それが中国ともなれば法律も無視してやっているのだ。

 しかも使役魔獣まで手に入れたとなると、ダンジョン内には近代兵器を上回るような力が眠っていることにも感づいている可能性がある。


 使役魔獣の中には、ゴジラに匹敵するようなものまでいるのだ。

 モンスターさえ排除できれば、どんなアイテムだって手に入る。

 それでも試練の遺物が生み出したモンスターの中には、暗躍のローブのようなものさえ看破する奴がいるから、それだけで踏破することは出来ない。


 ホテルに帰りネット検索すると、世界中のダンジョン分布図を簡単に見つけることができた。

 大図書館の知識に照らし合わせれば、厩舎に近いダンジョンは中国にあり、武器庫に近いものはアメリカ大陸にある。

 どちらのダンジョンも探索が進みやすい都市部の近くにはないから、もうしばらくはえげつないものが出てくる心配はそれほどないようである。




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