第22話 新宿二層
外に敵の気配がして目が覚めた。
寝袋から抜け出した俺は、そのまま敵を無視して焚き火でラーメンを作って食べ、コーヒーまで入れたが、敵がこちらに気付くことはなかった。
この天幕に付いているカモフラージュ機能は大したものである。
ある程度のものはダンジョン産でなくても入れておけるのがいい。
保温機能付きの無限水瓶も、バスタブくらいある水桶がペットボトルサイズにして重さも感じずに持ち歩ける。
魔法技術によって作り出された宝物の中では、あまり大したことがない部類だが、そのうち必要になるかもしれない。
宝物庫に行けば高エネルギー結晶体と、宝物や武器が残されているだろう。
宝物の中には叡智の泉や神秘の眼など、俺が得た知識の一部を手に入れられるような物まであるから、俺ものん気に攻略している暇はない。
武器として使っても強すぎる宝物は多数あるし、人を殺して大量に経験値を得る方法まであるのだ。
それらを得られる奴が出てくるのは当分先だろうが、容赦のないヤツほど攻略が進みやすいのが怖いところだ。
それから3時間ほどの捜索で、下に続く階段を見つけた。
階段の先で現れたのは、三つ足の大きなカラスのようなモンスターだった。
そのカラスのオレンジに光る眼に睨まれると、足元から炎の奔流が吹きあがる。
賢者のローブとオーラによって、なんとか耐えるが、追いかけてくる炎を防ぐ術がない。
空中発火の能力を持っているらしい。
炎に巻かれながら三つ足のカラスを倒した。
鳥だから骨は薄いし、追いつけば殴り殺すこともできる程度だ。
それでも俺のレベルが低い魔弾では、倒すことが出来なかった。
高温で焼かれた自分の皮膚から嫌なにおいがする。
それに鎧の下に着ていた上で買った服は、すべて燃えてしまった。
レベルと霊力が上がり続けているおかげで、高いところにいたカラスにも飛び上がって切りつけることができた。
最近ではジャンプしてみれば意外と届くという事も多い。
俺は殺した男から手に入れた暗躍のローブに着替えて、姿を消してからカラスを襲う方法に切り替えた。
一旦攻撃してしまうと、また姿を消すに時間がかかるが、これならカラスを倒すのに苦労がない。
不意を突いて襲い掛かるには、これ以上ないほどのアイテムである。
こんなものを手に入れてなければ、あいつも人殺しなどしなかったのだろうか。
息遣いが聞こえるほど近寄っても気付かれないというのは、あまりにも一方的過ぎて、なんとも言えない気分になる。
相手の存在をもてあそんでいるような、そんな感じだ。
何匹か倒しているうちに最初に減らした体力は回復できた。
カラスの体力が低いから、一度に回復できる量は少ない。
もう一階層降りられるだけレベルを上げなければならないが、カラスでは効率が悪い。
ドロップも布切れと、使い捨ての鑑定オーブになる眼玉だけである。
さらに二時間ほど奥に進んだ。
その奥にいたのは2.5メートルほどもあるゴーレムだった。
剣の切れ味が落ちるのは嫌だから、なるべく根元の方で切りつける。
それでも剣が受けているダメージの方が多そうで、途方に暮れてしまう。
俺は魔法でごり押ししてなんとか倒した。
動きが遅いからどうということはないが、アイスランスを4発も食らわせなければならないのはかなり消費が大きい。
一体倒すのにブルークリスタルを一つ消費してしまう。
倒しきったら安っぽいローブをドロップした。
図書館の知識によれば、ゴーレムは魔法生命体だという事である。
もう少し倒しておこうと思って、ゴーレムを倒して回った。
そこでメラカナイトの両手剣というアイテムを手に入れた。
1.5メートルはある半透明で赤紫色に光る氷のようなぶ厚い刃を持つ大剣で、切るというよりは破壊するためのものだ。
尖ってはいるが、刃と呼べるようなものはついていない。
もはや地上に存在する剣の概念を超えそうな何かだ。
それでもこん棒と呼ぶよりは、剣の方が近いというなりをしていた。
試しにゴーレムを殴ってみると、割と簡単に倒すことができた。
しかし動きの遅い相手だから、なんとか倒せているという感じが強い。
動きの遅い相手に魔法を使うのはもったいなかったから、その点ではありがたかった。
そのままゴーレムを倒しているうちに魔光受量値の限界に来てしまったので、引き返さなければならなくなった。
レベルは順調に上がっている。
あまりにも順調すぎてなんでだろうと考えたら、モンスター以外も倒して上がったからだ。
伊藤 剣治
レベル 28
体力 1241/1241
マナ 1194/1194
魔力 241
魔装 312
霊力 22654
魔弾(13) 魔盾(9) 剣術(19) オーラ(21)
アイテムボックス(17) 猫目(18)
アイスダガー ファイアーボール
ブラッドブレード アイスランス
魔光受量値 3542
これなら率先して、探索者狩りをやる奴がいてもおかしくないくらいだ。
もちろん敵を作りやすく、ソロで攻略してる奴くらいしか狙えないし、レア装備でもない限り勝てるとも限らない。
それに相手がレアを持っていないとも限らない。
これから一般人の探索範囲が広がってモンスターの討伐数が上がるにつれて、より探索者同士の争いが激しくなりそうな予感がする。
帰り際に、レックスと戦っている自衛隊に出くわした。
公務員という言葉が似つかわしくないくらい粗野な感じがするのはなんでだろうか。
暗躍のローブを着ていたために気付かれることなく近寄ることができた。
話している内容から見ても自衛隊員で間違いないだろう。
ダンジョンに入っている自衛隊員は全員志願した者であり、士気も高く、最も効率を重視して動いているという噂である。
ダンジョンにいる人の中で、彼らは唯一金銭目当てではない。
純粋に深層への踏破だけを目標にしているから、レベル上げの効率しか求めていない。
身分を隠したいのか、階級や自衛隊であることを表すものは身に着けていなかった。
剣と盾を持った前衛に、槍を持った中衛、そして魔法を使う後衛が複数である。
彼らは遠くから魔法で崩すスタイルを最初に捨てたパーティーだろう。
ガーゴイルあたりではまだ、遠距離を使って倒すのが主流である。
声を掛け合っているし、連携にも無駄がない。
とりあえず彼らに負けないチームを作ることが目標になる。
俺は地上に戻って、村上さんのところで出たアイテムを売り払った。
値段はまずまずで、東京にいる間の生活費くらいは余裕でまかなえる額になった。
蘭華の様子を見に行くと、やっと寝られるようになったらしく、寝ぐせだらけの髪で俺を出迎える。
「やっぱり栃木に帰りたいわ。こんなに辛いなんて知らなかったのよ」
「いや、お前は、あんな田舎で腐らせとくには惜しいよ。それに辛いのは最初だけだ」
「まあいいわ。もう少しだけ様子を見ることにするわよ。剣治一人じゃ心配だものね」
「面倒見のいいおばさんかよ。俺に何の心配があるんだ」
「一人にしたら、死なばもろともみたいな感じで無茶するでしょ」
死なばもろともでいいではないかと思っているので何も言い返せない。
思い返せば、俺はここまでどう強くなるかじゃなくて、どんなふうに死にたいかでやってきたように思える。
しかし、仲間を作った以上は、そんなやり方は捨てなければならない。
世の中には世界を支配するために、ダンジョンに取り組んでいる奴らだっているのだ。
そいつらと本気で勝負しなければならない。
ヘタに動けば蘭華や有坂さんの命まで危険にさらしかねないのだ。
そんなことをうだうだ考えながら俺はホテルで一日寝て過ごした。
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