第13話 庭園の終わり
俺が庭園と呼んでいる場所へ、2度目の狩りに向かった。
ぽつぽつと現れるカエルとウルフを倒しながら先に進む。
そして、通算で300体は倒しているであろうハイゴブリンのゾンビから、初めてのレアドロップが落ちた。
黄金色に輝くスキルストーンである。
能力は猫目だ。
たぶん暗闇でも物が見えるようになるとかそんな能力だろう。
覚えようか売ろうか、さんざん悩んだ末に覚えることにした。
発見されずに倒すというスタイルから考えれば、夜目が効くというのは悪くない。
どういうわけか、売れば高額になるものを使うというのは罪悪感のようなものを感じた。
猫目を使った感じ、さすがに初期状態では効果が薄いようだ。
色が薄くなるから、逆に見えない部分も出てくる。
それでも数字が上がれば、絶対に肉眼よりは良くなるだろうという確信があった。
だから数字を上げるためにも、常に使い続けることにした。
この前は重くてしょうがなかった両手剣が、今日は軽くなったように感じる。
適正霊力になったという事だろうか。
すでにボロボロすぎて、のこぎりみたいになっている両手剣を眺めながらそう考えた。
予備に変えるべきだろうかと不安になってきたので、俺はボロボロの剣を岩に叩きつけてみる。
簡単に真ん中から折れ曲がって、使い物にならなくなってしまった。
ファイアーボールで燃やしてみると、金属の塊のはずである剣が抵抗感もなく燃えてなくなってしまう。
ダンジョンから生まれた物でも、持っている魔力を失うと地上の物質と同じ運命をたどるようだった。
どんどん奥に進んでいくと石でできた木がみえ始めた。
少しはレベルも上がったことだし、今日はコボルトと正面から戦ってみることにする。
オレンジクリスタルの残りが10個を切ったら、またアサシンスタイルにすればいい。
そう思って、隠れたりせずに堂々と石の森を歩いた。
まず現れたのはヘラジカだった。
こいつは連射の利く魔弾と、角の防御性能で戦う敵だ。
使い捨てにしようとアイテムボックスから盾を取り出そうとしたら持ってきていなかった。
魔弾を胸に受けるが、鎧のおかげでダメージはない。
オーラの熟練度が上がって、もはや魔弾くらいでは脅威でもなくなっている。
剣で顔だけ守りながら突っ込んで、角ごと頭を叩き割った。
こっちは多少のダメージを覚悟すれば問題なく倒せる。
問題はコボルトである。
前回は素早すぎて、両手剣では追いきれなかった。
ちょうど5匹の群れが現れる。
すでにこちらに気付いているので、まずは魔弾を放つ。
飛び上がった相手の着地に合わせて、剣で盾を使わせてからアイスランスを放って倒した。
そこに四本の切っ先が俺に向かってくる。
首、肩、足、背中に痛みが走るが、アドレナリンが出ているので大した痛みは感じない。
腰のナイフを引き抜いて、正面コボルトの心臓を突き刺した。
倒したのは首にレイピアを突き立ててきたコボルトだ。
これで2匹倒して、残りはあと3匹だ。
首に刺さったレイピアを引き抜いて脇に投げ捨てる。
魔装が上がったせいだろう、刺さった後の持続ダメージは前よりもマシになっている。
ナイフを鞘に戻し、俺は両手剣を構えた。
剣を振るうと、コボルト3匹は綺麗に揃って、3メートル近く上に飛び跳ねた。
空中に向かってアイスランスを放ち、1匹を倒す。
そして、相手の跳躍の下を抜けて、着地を後ろから狙って一太刀で2匹を斬り倒した。
最後の2匹をブラッドブレードで倒したことから、なんとかレイピアで開けられた体の穴は塞がっている。
魔装があがりダメージが減ったことで、ブラッドブレードの回復でかなり体力を戻せた。
回復クリスタルは使わずに、次の敵を探すことにする。
ここでヘラジカが出てくれれば体力を完全に回復できるのだが、そう上手くはいかない。
次はコボルト3匹だった。
もはやコボルトの持っているレイピアが、それほど脅威には感じられない。
両手剣で隙を作らせて、盾を使わせないように魔法とナイフで倒す。
このパターンが確立できて、なんとか安定してコボルトを倒せるようになった。
焦っては駄目だし、一体ずつ確実に狙っていくのが重要だ。
それだけで、なんとか倒せる相手になった。
また少し強くなった実感が得られて、充実感が感じられる。
気を良くした俺は、さらに倒そうと敵を探して石の森の中を駆け回った。
地面はやたらと整地されていて少し柔らかく、本当に庭園か何かのようだ。
石造りの池があり、水が湧いているのを見つけた。
湧いた水がどこに消えているのか知らないが、川になって流れているという事はない。
とてもじゃないが、この水が飲めるかどうか確かめてみる気にはならなかった。
敵を倒しながらさらに奥まで進むと、やっと石の森を抜けて、今度は真っ白な石畳へと変わる。
いったいこのダンジョンという奴は何なのだろうか。
異世界からやってきたのか、遠い宇宙の果ての文明に繋がったのか。
石畳は切れ目もないほど精巧な作りである。
とてつもない精度の石塔がぽつぽつと点在し、水路の様な溝が走っている。
そこを、つぎはぎだらけの薄汚いコボルトが走り回っているのはいかにも不釣り合いだ。
もはや洞窟というより、別世界に来てしまったような感じしかしない。
しかし、視界が開けてしまったせいで、コボルトたちの猛攻が止まらなくなった。
俺は数体を引き連れて、石の森の中に誘い込んで倒すという工程を繰り返した。
そんなことを繰り返しているうちに、魔光受量値が2500を超えてしまう。
今回はコボルトを倒しまくったから、早々とこうなってしまうのは仕方なかった。
石畳の先が気になるが、俺は気付かずにのめり込んでしまう癖があるから早めに帰ることにしよう。
こんなに魔光を受けた状態で暴走して、もしボスでも倒してしまったら、本当に消し炭になりかねない。
今回のドロップはレイピア三本と、山ほどの腐った盾、あとはクリスタルである。
ダンジョンから出ると、外は深夜だった。
風呂に入ってその日は寝た。
次の日は、探索協会の登録開始というニュースからはじまった。
1時間ほどの講習を受ければ、誰でも免許は交付されるという。
しかし、レベルが1より上昇したものは、東京で特別講習を受ける必要があるとのことだった。
許可なくダンジョンに入っていたことを責められるのだろうか。
もし逮捕とかいう話になるのなら、このままモグリで続けることも考えるが、特にペナルティを貸すためではないと、テレビのニュースキャスターは言っている。
久しぶりにチェックした掲示板でも、講習会の話題は好意的だった。
掲示板で情報交換した人達に会えるかもしれないし、行ってみようかという気になる。
ギルドやクランにあたるという、チームというものについても情報を得たい。
講習は今日からだと言うが、今日は最も体が辛い一日である。
ダンジョンに入れない日でもあるのだから、面倒事をすませてしまう日にはちょうどいい。
魔光受量値が4000や5000というような値でもなければ、ステータスの上昇によるものか、最近は痛みが多少緩和されているから、たぶん大丈夫だ。
俺が登録に行くと決めて準備していたら、蘭華が電話してきて一緒に登録に行かないかといってきたが、俺は一人でいけと伝えて電話を切った。
準備が済んだら快速電車に乗って東京に向かう。
東京の販売会にも寄るつもりで、全財産をもってきている。
なんでも今日の登録会場に近い公園では、チーム員募集の受付の他にもアイテムの販売会などがあるという話なのだ。
コボルトがドロップしたギザギザのレイピアもそこで売ればいい。
このレイピアは、まだ3本しか出ていないレアものである。
間違いなく、俺は攻略最先端組の一人だろうからかなりのレアである。
それでも、最近の武器相場から言えば大した金にならないのが悲しい。
俺としては攻撃力の高そうな剣が欲しいところだ。
理想を言えば、一方的に攻撃できるような魔法の武器でもあれば最高だが、そんなものが市場に出ることはないだろう。
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