2.冒険者レベル1のお仕事

 エンパレの町から西に徒歩2日ほど。

 山の中の中腹にポッカリ空いた洞窟が今回の俺達の仕事場だった。


「冒険者ギルドからやってきた? お前達が?」


 俺達――俺、アレル、フロル、ライトの4人を、心底胡散臭そうに睨む中年の男。筋肉隆々でいかにも山の男といった感じに日焼けしている。この鉱山の経営者である。


「はい。これが依頼書です」


 男は依頼書を一瞥し、さらにもう一度俺達パーティーを確認する。


「……お前ら、鉱石採取をなんだと思っているんだ? 優男とガキとガキとすらいえない幼児2人とか……」


 いや、まあ、分かるけどね。

 アレルとフロルはもちろん、ライトだって男から見ればお子様だろう。あるいは俺もガキと変わらないかもしれない。


 ライトが言う。


「なんだよ、文句あるのかよ? ちゃんとレベル1のカード見せただろうが!」

「そりゃ、まあそうだがな。仮にカードのステータスが正しかったとしてもだ。ガキ――ライトか? お前はまだしも、チビ――アレルはいくら力が強くても背が足りん。

 まして、力の無い魔法使いなどここでは役立たずだ。ゴーレムでも召喚できる高レベルなら別だがな」


 言ってくれる。

 とはいえ、俺も自分が鉱石採取のような力作業で役に立てるとは思っていない。ぶっちゃけ、俺の今回の役目は『無限収納』で鉱石をギルドまで運ぶことである。

 もっとも、レア魔法の『無限収納』はカードから隠していたので彼は知らないが。


「俺やフロルは『水球』が使えます。確かに力仕事ではお役に立てないかもしれませんが、皆様においしいお水を差し上げますよ。火照ったからだを『氷球』で冷やすお手伝いもできます」


 鉱石採取そのものでは、確かに俺やフロルは役に立てない。『泥沼』では鉱石も泥に変えてしまうしな。


「もちろん、皆さんが疲れたら『体力回復』も使えますし、いざという時には『怪我回復』も……」


 俺が自分たちの有用性をアピールすると、彼はウンザリした顔になる。


「あー、わかったわかった。もういい。魔法使いというのは理屈っぽくていけねぇ。どこまで役に立つかは働いて証明してもらおうじゃねーか」


 こうして、俺達の鉱山での仕事が始まった。


 ---------------


 レベル1として、俺達4人が最初に受けた依頼は『鉱石発掘の手伝い』だった。

 他の依頼――たとえば、護衛なんかは、それこそ5歳児連れでは難しい。魔の森のモンスター退治に関しては、先日の事件以来のきな臭さを考慮してレベル2以上への依頼に格上げされてしまった。


 そんなわけで、唯一残ったのが、この鉱山でのお仕事だったのだ。

 期間は10日間。鉱山からは働きに応じて、かねではなく鉱石が渡され賃金の代わりとなる。

 俺達はギルドに鉱石を持ち帰り、ギルドがそれを俺達から買い取ることで依頼終了。


 ま、言ってみれば冒険というよりも、臨時の作業員請負みたいなもんだな。


 鉱山経営者の男が俺達を見て嫌な顔をしたのは、まあわかるよ。

 屈強な戦士が来るのかと思ったら、力の弱い魔法使い2人を含む、4人中3人がお子様な冒険者パーティだもんな。


 実際に働けば、俺達はかなり有用だったようだ。


 俺とフロルの魔法は採掘そのものにはほとんど役に立たないが、この辺りは川から遠く、飲料水を出せるのはかなりありがたがられた。

 特に氷を入れた水は作業員達に好評で、最終日には『明日からは冷たい水が飲めねぇのか』と残念がられたくらいだ。

 もちろん、体力回復を使うことで作業員の休憩の効率化も図れる。


 ライトはかなり張り切って働いており、ガンガン鉱石を採掘していたらしい。

 アレルも確かに背丈の問題でステータスの力ほどは活躍できなかったが、それでも5歳児としては役に立っていただろう。なにより、かわいいアレルが一生懸命働いている姿は、ギスギスした現場を和ませる。


 どうも、2人とも『もっと強くなりたい』という思いが、先日のセルアレニの事件以来さらに強くなったらしい。鉱山での仕事は体力を付けるのに役立つと理解しているらしく、オーバーワーク気味に働いている。


 いずれにせよ、10日が終わる頃には文句を言っていた経営者の男も含め、俺達を認めてくれたようだ。

 最初に約束したよりもかなり多めの鉱石をくれて、『また依頼を見たら来てくれ』とも言われたのだった。


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 14日ぶりにエンパレの町のギルドへ戻ってきた俺達。

 まずは鉱石を買い取ってもらって、依頼終了としよう……などと思っていたのだが。


 ギルドに俺達が入るなり、キンキンした叫び声が上がった。


「ライトっ! ようやく見つけたわよ」


 ライトを指さし、睨む1人の女性――いや、ライトと同い年くらいの女の子。かなりかわいいが、キツイ目をしている。


「ゲ、ソフィネ!? なんでここに!?」


 ライトが心底嫌そうな悲鳴を上げた。

 このソフィネという少女との出会いが、俺達にさらなる嵐のような日々をもたらすのだった。

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