4.魔の森

『地域察知』の地図上、ここから南南西700メートルのあたりに、人の反応が見つかった。もちろん、魔の森の中だ。


「南南西に、えーっと、350メルってところに反応があります」


 この世界の長さの単位はメル。1メル=2メートル程度だ。あくまでも概算だが、今はそれで十分。


「あいつら、そんな奥まで」


 ミリスが舌打ちする。


「そこまで奥ではないのでは?」


 700メートル。いや、魔の森までまだ200メートルあるので、せいぜい500メートルくらいだが。


「魔の森の外側200メル程度ならば出てくるモンスターはザコがほとんど、個体数も少ない。あの3人でもあるいは逃げるくらいはできるだろう。だが、210メルを超えると急に厄介なモンスターが増える」


 500メートル=250メル。たしかに210メルを超えている。


 俺は1つ妙なことに気がつく。


「でもおかしいですね。反応が1人だけです」


 もちろん、俺の『地域探知』で探れる範囲には限界がある。魔の森の全てを表示することはできない。

 だが、3人が離れて行動するとも思えない。


「『地域察知』では死人は表示されないのではなかったか?」


 すでに、3人のうち2人は死んでいるという意味か。


「嫌なことを言わないでくださいよ」

「そういう可能性も覚悟はしておけということだ。3人がはぐれた可能性もあるし、全く無関係な冒険者が偶然そのあたりにいるだけという可能性だってある」


 話し込む俺達をライトが急かす。


「なんにしても急ごう。ここで話していてもらちがあかない」


 それはその通りだ。

 もし、すでに3人の中の2人が殺されているとするならば、残り1人が現在進行形でピンチの可能性だってある。


「確かにな。いくぞ。油断だけはするな」


 そして、俺達は魔の森に足を踏み入れた。


 ---------------


 魔の森に入った途端。

 鳴き声とともに、四本の腕と2本の足、それに3本の尻尾をもった猿のようなモンスターが襲いかかってきた。


「うわっ」


 思わず悲鳴を上げる俺。

 だが。


「ちっ。ベルモンキか」


 ミリスがすぐさま斬り捨てる。


「さすがです」


 やはり、彼女は場慣れしているなと、俺は思ったのだが。


「油断するなと言った。まだ周囲にたくさんいる」


 え?


『キッー』


 木の上から、猿のようなモンスター――ベルモンキが10匹以上、俺達に向かって飛びかかってきた。


 ---------------


 ベルモンキの3匹をミリスが相手にする。数の上では不利だが、互角以上の戦いをしてくれている。

 一方、ライトは1匹だけを相手にして苦労している。負けそうではないが、もう1匹彼の方に回ったらヤバそうだ。


 そしてアレル。


「てやぁぁぁぁ」


 気合い一撃。

『風の太刀』を繰り出し、残りのベルモンキを吹き飛ばした。


 その時。

 アレルが吹き飛ばしたベルモンキの1匹に氷の球が飛んでいく。


 フロルの『氷球』だ。

 それで、ハッとなる。俺は何を見学しているんだ。魔法を使わねば。


 思念モニタから地図を消し、魔法使用を選択。

 この数だ。一気に倒す。


『火炎連弾』を吹き飛んだベルモンキ達に向けて発射。

 それでヤツらは消し炭になる。


 ミリスが3匹のベルモンキを倒したのも丁度その時だった。

 最後に、ライトが苦戦していたベルモンキを、アレルも加勢して倒し、その場は俺達の勝利になった。


 ---------------


「なんとかなりましたね」


 ベルモンキを倒しきった後、俺はミリスに言った。


「ああ、だが、ショート、フロル、魔法の使い方に無駄が多いぞ。集団に対して固体攻撃の氷魔法を使うこと自体無駄に近いし、凍らせた相手に炎の魔法を当てるのは非効率だろう」


 確かにその通りだ。

 どちらかというとこれはフロルのミス。

 彼女は集団攻撃魔法を覚えていないのだから、ライトかミリスが相手にしているベルモンキを攻撃すべきだった。

 いや、それをいうなら、しょっぱな俺が魔法を使うことを失念していたから、彼女を焦らせてしまった面も強い。


 アレルやライトは実戦未経験とはいえ、剣術の模擬戦をつんでいる。

 一方、俺やフロルは模擬的な戦闘訓練もほとんどしていない。

 その差はでかいということか。


「すみません」


 俺が謝り、フロルも頭を下げた。


「いや、いい。反省は大切だが、気落ちは厳禁だ」


 俺達は再び歩き出した。


 だが。

 50メートルも進まないうちに、今度は1メートル近い大きさのトンボのようなモンスターが襲いかかってきた。もちろん、モンスターだけあって、ただのトンボではない。尻尾には鋭い針がついている。


「フライルか。気をつけろ、針には毒がある」


 今度は空飛ぶ敵かよ!?

 しかも、10、20、いや、30匹はいる。


 今度はしくじらない!

 まだ離れているうちにけりを付ける。その為には!

 俺は『火炎連弾』を使用。全てのフライルを攻撃!


 だが。

 俺の魔法をかわしたのか、それともHPを削りきれなかったのか、そのうちの5匹が俺達に迫る。


「てやぁぁぁ!」


 アレルが『風の太刀』を使う。

 だが、フライル5匹中3匹は逃れている。


「ヤツらには『風の太刀』よりも『光の太刀だ』」


 ミリスはアレルに叫びながら1匹を斬り捨てる。残り2匹。

 アレルが今度は『光の太刀』を使った。こちらは命中。


 なんとか、全て倒したか?


「これが魔の森……」


 俺は呆然と言う。

 雑魚しかいないという外側ですらここまでモンスターが次々でてくるのか。

 しかも、ザコといっても、ツノウサギとは違う。ベルモンキもフライルも弱いとはとても思えない。


 ぶっちゃけ、転移初日に俺1人で出会っていたらとても勝てる相手ではなかった。

 ベルモンキ1匹でも、たぶん負けていただろう。

 シルシルのやつ、何が『火炎球』で楽勝のモンスターしかいないだ。ふざけるな。


 だが。


「いや、おかしい」


 ミリスは端的に疑問を口にする。


「何がですか?」

「ベルモンキもフライルももっと奥に生息しているはずのモンスターだ、こんな外側にいることはめったにない。しかもこの数」

「……どういうことでしょうか?」

「わからん。だが嫌な予感がする。気を引き締めて行くぞ」

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