3.即席パーティーのステータス

 魔の森。

 この世界にはわりとたくさんあり、そして人々にとっての身近な脅威でもある場所だ。


 魔の森にはモンスターが住む。

 いや、むしろモンスターが住む森を魔の森と呼ぶ。

 魔の森は一般に中央に向かえば向かうほど強力なモンスターが、たくさん現れるらしい。


 エンパレの町の近くにも魔の森がある。

 他ならぬ俺が最初に転移した森だ。

 町からは子どもでも徒歩で行ける距離。


 そんな場所に魔物の住まいがあって、町が平和なのは魔の森のモンスターが森の外に出てくることはめったにないからだ。ツノウサギが1匹迷い出てくるとかそういうことはあるようだが。

 魔物が森から出てこない理由は不明。一説には魔物は魔の森やダンジョンから離れてしばらく経つと命を失ってしまうとも言われているらしいが。


 いずれにせよ、エンパレ近くの森に、俺は再び向かおうとしている。

 あの時は1人だった。職業は無職で魔法の使い方もよく理解していなかった。

 今は、アレル、フロル、ミリス、それにライトが一緒にいる。魔法もたくさん覚えた。


 あの時だって無事だったのだ。今回も大丈夫。

 そう信じよう。


 ---------------


 魔の森まであと200メートルほどの場所でミリスが立ち止まった。


「魔の森に行く前に、確認しておこう」


 ミリスはそう言ったが、ライトは気がせいているようだ。無理もない。こうしている間にも彼の仲間がどうなっているか分からない。

 だが、ミリスはだからこそ最低限の確認をして確実に歩を進める必要があるという。


 この5人の中でもっとも経験があるのはミリスだ。というよりも、俺を含め他の4人は魔の森はおろか、モンスターとの戦闘経験もほとんどない。

 ミリスの言葉に従わないわけにはいかない。


「まず我々の目的は、3人――バーツ、マルロ、カイを連れ戻すこと」


 俺達は頷く。冷静に考えてみると、俺とフロルは3人の名前を初めて聞いた。


「だが、場所は魔の森だ。モンスターとの戦闘が予想される。そこで提案だが、互いの冒険者カードを確認したい」


 うん? どういう意味だ?

 俺達がレベル1の冒険者であることはミリスも知っているはずだ。


「登録無しの即席とはいえ、5人でパーティーを組むようなものだ、互いのステータスは知っておいた方がいい」


 あ、なるほど。お互いのステータスを冒険者カードで確認するって意味か。

 ミリスによれば、旅先で正式ではない即席パーティーを組むとき、冒険者は互いのカードを確認することが多いらしい。もちろん、仲間の力を知っておく必要があるというのももちろんだが、それが互いを信頼しているという意思表示でもあるという。

 逆に言えば、信頼していない相手には冒険者カードやステータスはおいそれと見せるものではないのだ。


「もちろん、隠したい部分は隠してもいい。そこは自分で判断してかまわないが、できれば戦闘能力に関しては開示してほしい」


 俺に否はない。ライトやミリスのことは信頼している。

 ライトも同様のようだ。

 俺達はお互いの冒険者カードを見せ合うことにした。


 俺と双子は試験の時から変化無し。


 ===========

 氏名:ショート・アカドリ

 職業:冒険者(魔法使い レベル1)

 HP:32/32 MP:69/80 力:22 素早さ:10

 装備:旅人の服

 魔法:無限収納/地域察知/体力回復/怪我回復/解毒/火炎球/火炎連弾/水球/氷球/水球弾

 スキル:自動翻訳

 ===========

 氏名:アレル

 職業:冒険者(戦士 レベル1 ※ただし満十歳までは大人の冒険者とパーティを組んだときに限る)

 HP:95/95 MP:20/20 力:93 素早さ:122

 装備:旅人の服(子ども用)/木刀

 魔法:なし

 スキル:見切り Lv6/俊足 Lv5/風の太刀 Lv4/光の太刀 Lv1/気合い Lv2/威圧 Lv1/連撃 Lv5

 ===========

 氏名:フロル

 職業:冒険者(魔法使い レベル1 ※ただし満十歳までは大人の冒険者とパーティを組んだときに限る)

 HP:24/24 MP:140/140 力:12 素早さ:10

 装備:旅人の服(子ども用)

 魔法:体力回復/解毒/水球/水球弾/水球壁/氷球/氷球弾/泥沼

 スキル:なし

 ===========


「……アレルもすごいが、フロルもすさまじいな」


 ライトが驚いていう。

 そのライトのステータス。


 ===========

 氏名:ライトルール

 職業:冒険者(戦士 レベル1)

 HP:65/65 MP:0/0 力:59 素早さ:51

 装備:旅人の服/皮の鎧/鉄の剣

 魔法:なし

 スキル:見切り Lv1/気合い Lv1/威圧 Lv1/連撃 Lv2

 ===========


 正直、戦士としてはアレルに比べると大分見劣りがする。

 だが、13歳としては彼もそうとう優秀だと、聞いたことがある。

 大人の、普通に健康な肉体を持っている俺のステータスと比べれば分かるだろう。

 シルシルにもらったMPを除けば全てのステータスが俺――つまり一般男性を遙かに凌駕している。


 今の彼ならば、ゴルなど楽勝だろうとはミリスの言だ。

 ちなみに、ゴルはいつの間にかエンパレの町からいなくなっていた。5歳のアレルに負けたのがショックだったらしい。


 で、ミリスのステータスは次の通り。


 ===========

 氏名:ミリス

 職業:冒険者(戦士 レベル3 剣士 レベル3)

 HP:98/98 MP:0/0 力:103 素早さ:102

 装備:旅人の服/鉄の鎧/鋼鉄の剣/鉄の脇差し

 魔法:なし

 スキル:見切り Lv4/俊足 Lv1/気合い Lv4/威圧 Lv2/連撃 Lv3

 ===========


 ステータスだけをみると、アレルと大差が無い。

 ミリスはアレルに力で勝り、素早さで劣る。

 スキルを含めれば、なるほど確かにアレルはすでにミリスよりも強いのかもしれない。しかし、それはあくまでも数値上の話。実戦経験は圧倒的にミリスだ。アレルの実戦などないに等しい。ツノウサギにジャンプキックしただけで実戦経験とは呼ばないだろう。

 ならば、やはりこの即席パーティーのリーダーはミリスに委ねるべきだ。


「念のため言っておく。4人とも私に頼るな」


 どういう意味だという顔をすると、ミリスは言う。


「ぶっちゃければ私はそこまで強くない。たとえばアレルの試験を受け持ったレルス=フライマント殿が本気を出せば、私など1秒も経たずに殺されるだろう」


 それはそうなのかもしれないが、比べる相手がおかしいだろう。


「相手にもよるが、私程度の強さではここの魔の森レベルでも十分脅威なんだ。とてもではないが、お前達を庇いきることは難しい。むしろ、お前達を戦力としてあてにしている」


 ミリスは真剣そのものだ。


「お互い助け合うのはいい。だが、私に依存した戦い方――最後は私が助けてくれるだろうといった甘い考えは持たないでくれ。はっきりいってそこまで責任は持てん」


 俺はゴクリと唾を飲み込む。

 正直、確かに甘えている気持ちはあった。ベテラン冒険者のミリスがいるのだからなんとかなるだろうみたいに。

 だが、それは間違いだとミリスは言うのだ。

 それこそ、レルスからみれば、ライトも、俺や双子も、そしてミリスも等しくザコといっていい程度の強さでしかないと。


 実際、ミリスのステータスはアレルと大差がない。ライトと比べてもそこまで圧倒的ではない。


「わかった。自分の身は自分で守る」

「アレルもがんばる」


 2人はそう言うが、俺とフロルは不安だ。

 魔法を使えるとはいえ、接近されれば対応できる自信はない。それこそ、ツノウサギ一匹相手でも、魔法を使えなければ今でも勝てる気がしない。


 そんな俺とフロルの不安を見て取ったのか、ミリスは言う。


「もちろん、前衛と後衛の役割分担は必要だ。私が先頭、ライトが殿しんがり、その間にショートとフロルを入れて2人にモンスターを接近させないようにする。

 アレルはショートとフロルを護れ。

 ショートとフロルは適時魔法で援護。回復も頼む。ただし、MPを使いすぎないように加減してくれ」


 このメンバーならば、ごく基本的な作戦だろう。

 そもそも、即席パーティーだ。即席ではない俺と双子のパーティーにしてもほぼ実戦経験はない。

 複雑な陣営をとってもよいことはないという彼女の判断は、おそらく正しいだろう。


「ショート。お前の『地域察知』で森の中の人間を探してくれ」


 地域察知で表示される地図上には、人間(亜人種含む)が青い点で表示される。モンスターは表示されないが、人捜しには便利な機能だ。


「わかった」


 俺は頷いて思念モニタを開くのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る