3.冒険者登録とちょっぴりの勇気

 ミレヌに針を渡された俺達。

 えっと、つまり針で自分の体を刺して血を一滴垂らせってことかな。


 とりあえず、俺は自分の左手の親指を針で刺した。

 チクッとした痛みと共に血が滲む。

 その血を冒険者カードに付けると、カードが光り出した。


「はい、これでショートさんの冒険者登録は終了です」


 あとはフロルとアレルの登録か。

 そう思って双子見ると、フロルは緊張した顔、アレルは恐れて今にも泣き出しそうな顔だ。


「これ、自分で刺さなくちゃいけないんですか?」


 さすがに5歳児に自分の体に針を刺せというのは酷なのではないだろうか。

 同じように痛いとしても、俺かミレヌがやってあげるべきなのでは。


「自分で刺さなくてはならないという規則はありません。ですが、冒険者の間では自ら痛みを引き受ける最初の試練と言われています」


 うーん。

 だったら、2人にも自分でやらせるべきだろうか。


 双子は震えてしまっている。

 針で刺すのは怖いよね。でも、ここは仕方がない。


「2人とも俺と同じようにやってみて」


 俺の言葉に、2人はおずおずと動き出す。

 双子は基本的に俺の指示を聞いてくれる。

 これが俺を信頼しているからなのか、それとも例の奴隷契約書の力なのか、微妙に分からないのだが。


 フロルは両目をギュッとつぶって、自分の親指を針で刺した。

 彼女の親指から血が滲む。

 涙目になりながら、フロルも冒険者登録を終えた。


 一方。


 アレルは針を指に近づけたまま固まっている。

 フロルがアレルを応援する。


「アレル、がんばって。ご主人様と一緒に冒険者になるんでしょう?」

「でもぉ……」


 俺も、アレルを応援する。


「アレル、がんばれ」

「うぅぅ……」


 それでも勇気が出ないらしいアレル。

 ついに、彼はポロポロと涙を流し始めてしまった。


 ……どうしよう、この事態。


 戸惑うことしか出来ない俺。

 もっと強く命令すれば、奴隷契約書の効力でなんとかなるのかもしれない。

 だが、それは避けたい。俺は2人の意思を尊重したいと思っているし、契約書の魔力で無理矢理やらせてもアレルが勇気を出したことにはならないだろう。


 涙目で固まったままのアレルに、俺は話しかける。


「なあ、アレル。昨日話したよな。一緒に頑張ろうって」

「……うん」

「アレルも冒険者のお仕事をがんばるって言っていたよな?」

「……うん」

「冒険者には勇気が必要なんだ。アレルには勇気があるかな?」

「………………」


 ダメかな?

 俺がそう思ったときだった。


「がんばる。アレル、がんばる。ごちゅじんちゃまやフロルといっちょにぼうけんちゃになる……」


 自分に言い聞かせるようにアレルはそう言った。

 そして。


 彼はゆっくりと自分の親指に針を刺したのだった。


「偉いぞ、アレル!」


 俺は彼をしっかりと抱きしめる。

 すると、彼は泣き笑いを浮かべて言った。


「えらい? アレル、がんばった?」

「うん、頑張ったよ、アレル。偉いぞ」


 こうして、俺達3人の冒険者登録は終了したのだった。


 ---------------


 登録を終えた俺達3人の冒険者カード。

 ミレヌは俺達にカードを渡すと言う。


「このカードは身分証となります。皆さんのレベル、名前、ステータスが表示されているはずです」


 俺は自分のカードを見た。


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 氏名:ショート・アカドリ

 職業:冒険者(レベル0)

 HP:32/32 MP:64/70 力:20 素早さ:10

 装備:異世界の服

 魔法:無限収納、地域察知、体力回復、怪我回復、火炎球

 スキル:自動翻訳

 ===========


 最初にステータス確認したときとほぼ同じだが、職業欄が変更され、現在のHPや魔力も表示されている。

 MPが減っているのは何度か無限収納を使っているからだろう。魔石がないことだし、余り無駄遣いはできないな。


 次に、俺は双子達のカードを覗き見る。


 ===========

 氏名:アレル

 職業:冒険者(レベル0)/ショート・アカドリの奴隷

 HP:35/35 MP:20/20 力:38 素早さ:20

 装備:奴隷の服

 魔法:なし

 スキル:なし

 ===========

 氏名:フロル

 職業:冒険者(レベル0)/ショート・アカドリの奴隷

 HP:22/22 MP:98/98 力:10 素早さ:10

 装備:奴隷の服

 魔法:なし

 スキル:なし

 ===========


 ……って、HPや力や素早さ、俺よりアレルの方が上なのかよ!?

 あと、フロルのMPもすごいな。


 というか、2人の職業。『ショート・アカドリの奴隷』って。

 いや、確かにその通りだが、色々誤解を招く表現だ。

 それに『奴隷の服』っていうのもなぁ。確かに2人の着ている服はボロっちいが。

 俺のスーツも含めて、服を買いなさないとダメかな。


「いかがですか? ご自身のステータスは確認できましたか?」


 尋ねられ、俺は頷く。


「はい」


 が。


「うーん、アレルよくわかんなぁーい」

「すみません、私も読めません」


 え、どうして!?

 2人にはカードの文字が見えていないの?


 いや、違うか。

 俺はすぐに気がつく。


「そっか、2人とも字が読めないんだね」

「もうしわけありません、ご主人様」


 いや、5歳児なら普通だろう。

 この世界の学業レベルは知らないが、日本人だって5歳ならひらがなが読めるかどうかといったところだ。

 まして奴隷だった2人に文字が読めるわけがない。


 読み書き計算の教育もしてあげないとな。

 俺は心の中にそう刻んだのだった。

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