2.ギルドと冒険者のシステム
「最初に理解していただきたいのは、冒険者とは決して世間で思われているような夢の職業ではないということです」
ミレヌの説明は、そんな言葉から始まった。
俺にしてみれば、むしろ冒険者が世間で夢の職業と思われているのかと驚いたわけだが、とりあえずそのことについてはコメントしないでおく。
「冒険者登録をされる方は年々増加しています。しかし、実際にダンジョン探索に行くことができるのは、そのうちの5割以下といわれています。
そして、ダンジョン探索に向かった冒険者のうち、1割は1度目の探索で命を落とし、1割は1年以内にやはり死亡または引退しています。
そのくらい、厳しい世界だとまずご認識ください」
ミレヌはそこで言葉を句切る。
俺達が理解できているか疑っている表情だ。
というか、アレルはまず間違いなく理解していないだろう。むしろ、早々に大人の話に飽きてしまったという表情だ。
フロルも細かいところは分かっていなさそうだ。無理もない。5歳児が『1割』とかは分からないよね。
「つまり、冒険者として成功するのは10人に4人程度ということですか」
俺が言うと、ミレヌは頷いた。
「それも甘く計算しての数字ですが、そう認識していただいて構いません」
「先ほどダンジョン探索に行くことができるという言い方をされましたが、ダンジョン探索をするためには何か条件があるのですか?」
「はい。ダンジョン探索が許可されるのはレベル2以上の冒険者に限られます」
そして、ミレヌは説明してくれた。
冒険者として登録をした段階ではレベルは0となる。
ある程度実績を積むとレベル1になるが、レベル1までは見習い扱いということだ。
「レベル0ではギルドが指定するいくつかの依頼しか受けられません。ほとんどが冒険者とは名ばかりの雑用で、この段階では収入も多くはないでしょう。
レベル1も似たようなものですが、受けられる依頼の幅が広がります。また、レベル1以上になると戦闘依頼――ダンジョン外でのモンスター退治などの依頼もあり、報酬も増えます。
実際に、皆さんがイメージする冒険者としての活動ができるのはレベル2以降です。先ほどの説明とあわせて考えるならば、レベル2以上になれる冒険者は5割未満ということですね」
そこで俺は質問した。
「レベルはどうすれば上がるんですか?」
「レベルアップにはいくつか条件があります。具体的には『実績』と『実力』です。
たとえば、レベル1になるためには依頼を20件以上成功させたという『実績』と、最低限モンスターと戦えるという『実力』が必要になります」
ふむ。
「『実績』はともかく『実力』はどうやって証明するのでしょうか?」
「ギルド職員が実際にテストします。レベル1になるためのテストは、職員との模擬戦ですね。必ずしも勝利する必要はありませんが最低限の『実力』を示す必要はあります。
レベル2になるためには、モンスターを複数回退治したという『実績』、それにやはりギルド職員によるテストを受けていただく必要があります。レベル2へのテストでは、ギルド職員と共に実際にダンジョン探索に行っていただきます」
つまりまとめると、依頼をたくさんこなして、『実績』を詰むと同時にテストで確かな『実力』を示すことで初めて冒険者として認められるということか。
「レベル3以降はテストはなくなります。代わりにダンジョンを攻略したという『実績』が重視されるようになります」
「なぜテストがなくなるんですか?」
「そもそも『実力』がなければダンジョンを攻略できませんから。最大レベルは99と定められていますが、全国でもっとも高いレベルの冒険者は、現在レベル42ですね」
なんだか、先がものすごく長そうである。
ある程度覚悟していたが、俺が蘇生できるのはいつの日になるのだろうか。
「冒険者になったら、まずはみなさんレベル2を目指されます。ですが、何度も申し上げているとおり、レベル2までたどりつける方は5割未満です。あなた方はそこまでたどりつけますか?」
真顔で尋ねられ言葉に詰まる。
シルシルはやたら軽く言っていたが、そんなに甘いものじゃないというのは理解できた。
「分かりません。ですが、俺達はやるしかない事情があるんです」
「……そうですか。まあ、レベル2までたどり着けなくても、冒険者登録にはメリットがありますし」
言外にお前らには無理だと言わんばかりのミレヌ。気持ちは理解できなくはないが。
「具体的にはどんなメリットが?」
「まず、先ほども言いましたとおりレベル0でもギルドが指定する依頼は受けられます。最低限食いっぱぐれない程度の仕事はあります。もちろん、依頼をこなせるかどうかは別問題としてですが。
次に、冒険者登録をすれば宿屋やお店で割引を受けられます。といっても、こちらはレベル0の段階では微々たるものですが。
さらに、ギルドの修行場で剣術や魔法などを習うことができます。こちらは有料になりますが、本気でレベル2を目指されるならば活用されることをオススメします」
そういえば、シルシルも冒険者ギルドで魔法を教われみたいなことを言っていたな。
「最後に、冒険者資格の剥奪について説明します。
冒険者登録は誰でもできますが、資格が剥奪されることがあります」
「具体的には?」
「1年以上なんの実績も無い場合資格剥奪になります。依頼も受けず、ダンジョン探索もしないのに、宿や店の割引だけを利用されても困りますから。
また、ギルドのルールを破った場合や、強盗や殺人などの重犯罪者になった場合も資格剥奪になりますので注意してください。
ルールはいくつかありますが、こちらは後でお教えします。具体的にはギルド内での争いなどですね。
以上で基本的な説明は終わりです。実際には必要に応じてギルド職員のアドバイスを聞いたり、先輩冒険者の知恵を借りる必要があるでしょう。
ここまでふまえて、本当に冒険者登録をされますか?」
その問いに、俺は頷いた。
「よろしくお願いします」
「フロルちゃんとアレルくんもですか?」
名前を呼ばれ、双子がビクッとなる。
まず、フロルが答えた。
「はい。よろしくお願いします」
アレルはよく分かっていない様子だが……
「アレルねー、ごちゅじんちゃまと一緒がいいの」
2人の答えに、ミレヌの顔が緩む。
うん、分かりますよミレヌさん。2人ともかわいいもんね。そういう顔になりますよね。
「わかりました。それでは冒険者登録させていただきます」
そういって、ミレヌは3枚のカードと3本の小さな針を取り出した。カードには石――おそらく魔石だろう――がついている。
「これは冒険者カードです。このカードに血を一滴垂らしていただければそれで登録完了になります」
ミレヌはそういって俺達に一本ずつ針を渡したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。