ぼくのかんがえた理想の賢者! ~前世の知識と、今世の才能活かして世界最強~

あざね

オープニング

プロローグ 大賢者と呼ばれた男の最期






 ――僕は大賢者に憧れていた。

 それはそう。普通の子供が勇者に憧れるように。


 いいや。もっと正確に言えば、誰しもが到達したことのない高みにある最高の賢者だ。それは富と名声を一身に集めることか? 違う。そうじゃない。

 賢者というのはその正体を隠しながら、そういった名誉に固執せずに、いざという時に人々の助けとなる。そんな存在だ。万能、最高、最強であることは前提だとして。


 ならば、そんな存在になるには、まず何が必要か。

 言うまでもないだろう。魔法だ。誰もが扱うことのできない魔法を使い、他を圧倒する。王宮に勤める冠位の魔法使いや、強力な魔物も一撃で葬る。そんな魔法だ。


 そして次に何が必要か。それは、剣技だ。さらに言えばあらゆる武術だ。

 最高の賢者たるもの、あらゆることに精通していなければならない。魔法を破られて、それで敵に勝てませんでしたでは――それは、なんと情けないことだろう。


 そんなわけだから、僕は必死に努力をした。

 魔法の基礎を洗い出し、その根源の知識に至るまで学を深めた。剣術や武術では、あらゆる流派を極めて自らの手で改良し、洗練していった。

 それはそれで、一定の成果を出したといえるだろう。だけど、齢も五十を数える頃。僕は理想の自分から大きくかけ離れていることに気が付いた。


 これはなんだ。

 こんなの、凡人が背伸びをした程度ではないか。


 そうだった。僕には決定的なものが欠けていた。

 それは、天賦の才と呼ばれるもの。この領域に至るまでに、このような時間をかけていては遅すぎる。そもそも、あまりに僕は目立ちすぎている。


 学祖と呼ばれ、流派の頂と呼ばれ、これでは理想とした賢者とは異なる。僕は決して、名誉や名声が欲しかったのではない。ただ子供の頃からの憧れに向かって、一直線に努力したのだ。しかし、その結果がこれだった。なんということか、気付くのがあまりに遅すぎる。


 それに加えて、僕は生まれながらに凡人であった。

 身体も特別強かったわけではないし、膨大な魔力を秘めていたわけではない。

 才能という言葉からは、程遠い人生だった。理想とする最高、最強の賢者とはかけ離れた者に成り果てている。そもそも、スタートから間違えていた。


「いいや。まだ、諦めるのは早い……」


 しかし、そこで僕は諦めなかった。

 何とかして、時を巻戻れないだろうか。いいや。巻戻るだけではダメなのだ。そこには圧倒的な才をもってして至らなければならない。

 最初の、始まりのその瞬間から、他を圧倒しなければならないのだから。


 ならば、どうするか。

 それは世界の時間を巻き戻すより簡単だった。


 生まれ変わればいい。

 世界を変えるのではなく、自分を変えるのだ。

 それならば、蓄えた魔力が少なくとも、知識を応用すれば可能である。


「さぁ、いよいよだ」


 僕は静かに目を閉じた。

 生命の終わりは穏やかに訪れた。



 意識が落ちていく。

 こうして、僕の一度目の生は終わりを告げた。



 

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