異世界学園ラブコメ-王女も勇者もエルフも全部盛り-

@blackkanade14

プロローグ いざ、異世界へ

中平普人なかひらひろとは、平凡な人間だ。公務員の両親の下生まれた普人は、中の下程度のルックス、ほどほどの学力にまあまあの運動能力。特筆すべき点を挙げる方が難しい。

だがあえて言うならば、普人は優しい心を持っていた。高くもなく、低くもなく、真ん中に位置している彼だからこそ、どちらの側にも寄り添うことが出来た。僻みでもなく、嫉妬でもない。対等な立場でいることが出来た。普人自身はそのポジションに多少の不満はあったが、どうすることも出来ないままに15年の時が流れた。

特別になりたい。その想いは思いもよらない形で叶うことになる。


「やあ、こんにちは。私は神様。それも全世界を統べる、神様の中の神様だ」


普人の目の前の女性は毎日の挨拶ぐらいのテンションで言った。

しかし、普人にその言葉は届かない。目の前の光景に頭の処理が追いつかない。

ついさっきまで、学校で授業を受けていた。にも関わらず、今いるのは真っ白い空間。どこまで続いているかもわからない空間に、頭が痺れる感覚に襲われる。目の前にいる女性は白い羽を周りに浮遊させて、微笑みを浮かべる。白さを通り越して輝きを放つ肌に、腰元まで伸びた真っ白な紙は神々しさすらある。


「神様って、言いました……?」


会話のキャッチボールにしては、かなりの時間を要して普人は言った。


「そう、私は神様。中平普人くん、君に用があってね。呼び出させてもらったんだ」

「いや、神様って……えっ?……どういうこと?」


追いつかない思考に、言葉がおぼつかなくなる。この場において、正常なものは何一つない。あまりの異常さで、普人自身の存在さえ曖昧になる。

神様は、普人とは対照的に動じることなく話を進めていく。


「いきなり言われても信じられないよねぇ。まあ、いいさ。話半分に聞いてくれ。

まずは君をここに呼び出した理由から話そうか」


言うと、神様はゆっくりと話し始める。


「まず理解してもらいたいのが、についてだ。君たちの住んでいる地球とは別の概念の世界が、数えきれないほどに存在している。そこには、勇者や魔王、ドラゴンやゾンビなど、多種多様な存在がいる。そして、種族が多ければ多いほど、抗争の数も多くなる。

言ってることはわかるかい?」

「……はい」


普人は気の抜けた返事をする。

全てが空想のようで、絵本を読み聞かせられているような感覚があった。


「ただね、神様としては皆に仲良くやってもらいたいんだよ。子供は外で遊び、大人は仕事に精を出し、夜は美味しいご飯にお酒があって、笑い声が聞こえてくるような、そんな世界が理想なんだ。

そこで、私は考えた。種族間の争いを失くすにはどうすればいいか。

そして、一つの結論に達した。全ての種族が集まる学校を作ればいいんだ!ってね。君もそう思うだろ?」

「はあ、そう……なんですかねぇ……」

「煮え切らない返事だなぁ。まあ、まだ生まれて15年じゃあ仕方ないか。赤ちゃんってことだからね」


やれやれ、と神様が首を横に振るとキラキラと光りが汗のように飛び散った。

普人はまだ現状への戸惑いはあるものの、この場に慣れ始めていた。回転しきれていない頭を使って思考する。神様と名乗る女性は、異世界がどうのこうのと話していた。その話が本当か嘘かを確かめることは出来ない。ただだとすれば、今自分が聞かなければならないことは……。

普人は言葉を選びつつ、慎重に口を開く。


「神様、あなたは私に何をさせたいんですか?」


神様だって暇ではないはずで、世間話をするために自分を呼ぶわけではない。では、自分を呼んだ理由は?

胸の奥がキュッと締まる。想像は出来ないが、あまり良い内容ではないだろうと、普人は想像する。

神様はにっこり笑った。身体はより輝きを増して、体内に電球が入っているかのようだった。


「結論を言おうか。普人くん、君には先ほど言った学園に入学してもらう!そこで、種族間の争いを失くし、平和な世界を作ってもらいたいんだ」

「ええっ!?」


普人は驚いた声を出す。

異世界に行くこともそうだし、世界を平和にするというスケールの大きすぎる話もあり、どうしていいかわからなくなっていた。


「全ての種族を入れたのはいいんだけど、対立している人たちとかもいてね、私の学園は常に学級崩壊状態なんだよ。銃弾やナイフが飛び交ったり、極大魔法を教室内で打ち込む人もいる。

そこで、君の出番だ。君は、とても優しい心を持っている。気遣いが出来る人間だ。君が教室内の人間関係を上手くコントロールして、種族間の対立を失くすんだ」

「いや、あの、命の危険がありそうなんですが」


普人から血の気が引いていく。異世界について、イメージすることが出来ていなかったが、明確な死の香りだけは察知することが出来た。


「そこは安心してくれ。死なないように私がサポートするから。

物理的な事柄に関しては私に任せてくれ。君に任せたいのはあくまで精神面のフォローだ」


ドン、と膨よかな胸を叩いて神様は言う。

話がどんどん進んでいく中、普人はどうにか行かないで済む方法を考えていた。何だかよくわからないが、とりあえず百害あって一利もなさそうであることだけはわかる。


「あの、自分辞退したいのですが……。僕より、上手くやれる人っていっぱいいると思うんですよね」

「そんなに自分を下げる必要はないよ。君は神様である私が選んだんだ。自信を持っていい。

それから、拒否権もない。神様は、気まぐれで頑固なんだ」


言うと、神様の横にブラックホールのような大きな渦が発生していた。普人の身体は渦の方に引っ張られていく。


「ちょ、ちょっと待ってください!本当に異世界行くんですか!?凄く帰りたいんですけど!」

「まあまあ、行ってみたら案外楽しいかもしれないから。習うより慣れろ、だよ。さあ、行ってみよう!いざ、異世界へ!」

「うわあああああああああああああっ!」


抵抗虚しく、普人の身体は渦の中に吸い込まれていった。

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