太陽が見ている

阿部 梅吉

それはワインのシミのように

 休暇中に来た死の連絡はワインのシミのようだ。一度付いたらなかなか取れないように、その知らせが私の頭から離れなくなった。余計な感情を振り払おうと、歩みを進めた。


 私はとにかく公園へと歩く。頭にこびりついた何かを振り払いたかった。平日の昼間なのに人々はたくさんいる。何かの物件のチラシ配りにお店の呼び込み、パンケーキのお店に並ぶ人たち、デパートの店先のセールに足を止める人々、犬の散歩を楽しむ人、カフェの軒先でくつろぐ人々。みんなが思い思いに動いていた。町ではみんなが自由に、自分自身の足取りで歩いているように見えた。

 公園に行く途中には湖があった。私はそこの前のベンチに座った。カモがいる。頭が緑だから、おそらくマガモだろう。私はそこで暫くぼおっとすることにした。とにかく何かを見て気を紛らわしたかった。ささ、と時折風が舞う音がした。木々が揺れた。イヤホンで音楽を聴いても悪くなかったが、暫くはこの風の音を楽しみたかった。カモががあがあと鳴いた。カモたちは狭い閉鎖空間の中で何かを言い争っている。可愛い外見に似合わず野太い声だ。四匹ほどの群れが三つあり、その中の一つの群が何かを言い合っていた。何を言っているのかはわからない。餌の取り合いなのか、かわいい雌の取り合いなのか、はたまた育児について夫婦で怒っているのか、私には皆目見当もつかないが、カモの世界にも何かしらのコミュニケーションは存在するらしい。ささ、と風の音がする。公園の木々はすでに赤くなっているものか、葉が無くなって剥げてしまった物ばかりだった。時折紅葉も見られる。私の真上にある気は何だろう、シダだろうか。

 カモを見るのにも飽きたのでイヤホンをし、宇多田ヒカルの『道』を聴きながら公園に入った。何でもいいから何か聴きたかった。花はすでに枯れ、ほとんど見られなかった。時折センダングサの花がちらほら見えるくらいだった。十二月だが、イチョウと紅葉は未だ咲いている。今年は暖冬だ。

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