advent.03

 ポカポカと暖かい春の陽気のこと。

「あー、いい天気だ。ねむくなってくるな」

「今日は昼寝日和だなー」

 その心地よい暖かさにカズトたち三人は小高い丘で休息をとっていた。それぞれ楽な姿勢をとり体を休めている。

「ねるか」

 あくびをまじえながら、カズトは丘の上の少し先にある大きな樹の方へと向かう。木陰で昼寝でもするようだ。

「せっかくだし、アタシも寝ようかな」

「いいよ、寝ておいで。ボクは銃のメンテナンスをするから、しばらく見張っておくよ」

「おう、ありがとう。そりゃ助かる」

 先ほどのカズトにつられたのか、レンカもひとつあくびをする。ここはリオの言葉に甘えることにしてレンカも木陰を目指した。

 リオは近くにあった切り株の上に座り、愛用の銃をホルスターから取り出し整備を始めた。




 銃の整備をひとしきり終え、リオはぐんと腕を伸ばした。そんなリオの元へひとりの少年が駆けてくる。

「見つけたぞ。おまえが勇者ガストだな!」

 少年は腰にたずさえた剣を抜き、刃をリオの方へと向ける。

「……え? どちら様?」

「さあ ガスト、勇者の名前を賭けておれと勝負しろ!」

「え、ちょっと!?」

 話も聞かず急に斬りかかってきた。

 しかし少年は決して強いわけではなく、リオは軽々と攻撃をかわしていく。

「少しは話を…………あっ」

 そのとき足元に魔法陣が浮かんでいることに気づくのが遅れたリオは運悪く相手の催眠魔法にかかってしまった。

 その場にたおれ眠りにつくリオを見て、少年はそれを戦闘不能だと認識したようだった。

「やった……? やった!? やったーっ!! おれが勇者を倒した!?」

「おめでとうございます、セイム様」

 勇者を倒したと勘違いして大喜びをする少年。

 その後ろから少年の名前を呼ぶ女性が現れ、彼を褒めたたえた。パラパラと気持ちのこもらない拍手がその場に響く。

「……ということはおれが勇者だ! 魔王を倒して姫を救う勇者はこのおれなんだ! サキネ、見てた? やったよおれ!」

「『やったー』という言葉を三回も使って喜びを表現するセイム様の低能さは相変わらずですわね」

「えっ、ひどくない? サキネはおれの従者だよね?」

 笑顔のまま暴言を吐く女性にセイムはわかりやすくうろたえる。どうやらリオに陰から催眠魔法を放ったのはこのサキネという女性のようだ。




「なんか騒がしいなー、賊でも出たか?」

「……」

「あれ? リオが倒れてる」

 そこへ起きたレンカとカズトが戻ってきた。緊張感のない様子でリオの元へ近寄る2人の存在に、喜びにひたっていたセイムとサキネも気付いたようだ。

「あら?」

「もしかして、勇者ガストの仲間か!? 残念だったな、勇者ガストはこの俺が倒した!」

「……ガスト、ねぇ」

 セイムの違和感を感じる名前の呼び方にカズトが反応し、無表情のままに手を口元へと持っていく。

「……黒い髪の青年」

 カズトの姿を見たサキネも何かを思い出したように手を頬へと動かした。

「勇者が倒されてびびったか? 今勇者になったおれに文句でもあるのか! なんか言ってみろ!」

「……笑わせる」

「ひっ……!?」

 カズトのたった一言でセイムはまるで蛇に睨まれたカエルのように体がこわばって動けなくなっていた。もしかしたら彼は、と伝えるサキネの言葉も聞こえずにセイムは固まっている。

「こんなクソみたいな勇者の座を欲しがる奴は珍しくないが、思い上がりが甚だしい奴は珍しいな」

 カズトが剣の柄をつかむ。


「覚えておけ、勇者気取りのクソガキ。――オレが勇者『カズト』だ」


 カズトが鋭くセイムを睨む。

「…………」

「ひとつよろしいですかカズト様」

 口をはさんだのはサキネだ。

「大変申し上げにくいのですが……セイム様は気を失っていますわ」

「……」

 カズトの鬼のような気迫に押されてセイムは立ったまま気絶していた。


 To the next adventure…

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