34  浅葉⑧

 三十分後、千尋のいないこの部屋に、浅葉は一人たたずんでいた。


 窓際に干してある洗濯物にさわやかな生活感が香る。プラスチックの物干しには、タオルやタンクトップ、靴下などが几帳面きちょうめんに並べられていた。


 カーテンを留めている帯の部分には、洗濯ばさみを円形に配したハンガーが掛かっている。そこには下着が吊るしてあった。


 浅葉の足はひとりでにそちらへと向かっていた。


 グレーの地にパステルカラーのポップながらが踊るショーツが二種類。レースを基調にした淡いピンクの上下。


 その隣には、花柄の刺繍ししゅうが入ったネイビーブルーが一組。千尋の普段の趣味からすれば数段大人っぽいテイストのそのブラジャーに、浅葉はそっと手を触れ、銀色の刺繍を指でなぞった。

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