信任
豊田とい
第1話 酔い
◎中堅議員、副大臣、最初の事件
〇世界中のプロダクトは2つの組織からできている
1
産業防衛副大臣を拝命した。
このところどの国の企業も機密の保持に苦労し、また、スパイ活動をしてでも
他者を出し抜く競争が激しくなっている
一時、先進国の企業連合はあるカリブ海の小国に政治力と財力を駆使して
先進国だけの特許防衛機関を作った
会員以外、誰もこの国には入れず、会員同士も出会えないように隔離され、
特許などの衝突があった時は企業トップの会談=その国内の法で処理される
これにより、大企業の特許は大いに保持され、新興企業は本来コモディティー商品
になるはずの物すら満足に作れなくなっていった
下請けの製作所が、その大企業の連合以外に契約できなくされたことも大きい
私の国でも、彼らだけは治外法権のように扱われ、大企業のSPに四六時中
守られ、私ですら全く会えない職人が大勢いた
しかし、国としても黙っていたわけではない、国民の利益が大きく、技術が
盗まれないこと自体は歓迎しても、その大企業が根幹の技術の利益による
税金を払わず(特許の所在地は海外なので)、自国の利益にならない状況に
対策を打つほかなかった
それが私の属することになった産業防衛省
難しいのは、途上国に利する、言ってしまえば我が国の技術をとられるような方策は
打てないということ
正直私も含めてほとんどの人は一般化した技術くらいは特許でガードしないで
一般に広めたほうがいいと思う
しかし、ベンチャー企業もたくましく、大企業の特許とは関係ない技術をどんどん
生み出して、特許自由機関を作っていた
この会員の中では特許はフリーで使いあうことができる
会員は大企業でなければOK、ただし経済的には社会主義で、特許とそれからの
利益ははすべての会員のものであり、一方的儲けにはならなくなっていた
なぜそんなに利益が機関にとられるかというと組織の維持費、大企業からの防衛費
が大半を占めていた
大企業も趣旨に賛同したふりをしててした企業をたくさん送り込んできていた
それだけベンチャーたちの新しい技術にはうまみがあった
もちろん大企業でしかできない開発もあるのだが、それを無効化するような
安価でしかもより効果の大きい技術がどんどん生まれていたから
ところがこうして2大勢力がにらみ合いを聞かせているところに、第3勢力が現れる
もとは中古の修理などを行っているところが、複数の製品を修理と称して
新しい機能を持った製品を作り出していたのだ
特許には抜け道があり、例えば特許のエンジンユニット自体を分解せず
別の自作の車に搭載したら、それは車の修理扱いになるということである
これはゲーム機の改造というようなものではなく、法律上はあくまでゲーム機の
液晶が壊れたので変える、という感じの扱いになるのである
補償対象外にはなるが、「ゲーム機に液晶をつける」ということに特許はないので
特許侵害にはあたらないということになる
あくまで重要な特許案件であるエンジンユニットは分解せず、別体系の特許と
なってしまっているギアボックスや機械をその特許の形のまま異種結合させると
いうことになる
そのエンジンとギアなどのつながりの部分は技術ある修理屋が自作し、
車体も新進気鋭のデザイナーが請け負った
しかもそれは(車検を通れば)中古車として売ることができる
本来なら反対意見が出るはずであったが、あまりにも企業からの国家への利益が
少なくなっていたため、ほとんどの国家で黙認されることになった
こうして世界の製品は2つの大きな特許機関と、無数の小さな改造屋によって
成り立つことになる
2話へ
信任 豊田とい @nyakky
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