給仕係のヴェニー
赤、白、黄色。緑、青。肌の色は様々に色を変える。赤、白、黄色。給仕のヴェニーは食事を運ぶ。
ヴェニーはロングスカートを履いた年若い給仕の女だ。電波塔管轄外から来た女は塔に拾われ、今は王宮に仕える身だった。ヴェニーは修復を得意とする。壊れた皿、スープのこぼれた絨毯、切り傷、刺し傷。欠けたそれらの時計の針を巻き戻してあるべき姿へ、それがヴェニーの魔法だった。あの長い黒髪が翻るとき、長いスカートがはためくとき、瀟洒な長い針はカチリと戻る。そのように見える。
そのように見える。真実は違う。元の姿がどうであったかわからないものを、ヴェニーは元に戻せない。新しく何かを作ることもできず、時間を直接捻じ曲げることもない、見せかけの修復をするだけの中途半端な力。ともあれ、彼女の力と記憶力は王宮で働く人間たちを助けた。
ヴェニーはスカートを外さない。足首までを覆うロングスカートをヴェニーは手放さない。それはあたかもヴェールのように彼女の足を覆い隠す。赤白黄色、青緑。肌は様々な色で満たされる。垂れる暗幕を取り払ったのなら、白い足は暴虐に彩られている。
十代半ばの細い足、少女の持ちうる華奢な腰。ヴェニーは語らない。ヴェニーは嘆かない。女の身に巣食い蝕む怨嗟の念を塔の女魔術師は癒そうとしたが、それは叶わぬことだった。女魔術師の魔法は忘却だ。ヴェニーはそれを望まなかった。
女魔術師にはヴェニーの罪が見えている。ヴェニーの両肩からつながる腕が、体に残る手跡の主と同じようにしたのを知っている。同じように振るわれた腕が、より取り返しのつかない結果をもたらしたことを知っている。しかしヴェニーの中からそれを消すことは、忘れまじと燃える暗い炎を消し去るのは、それだけでひどく困難なことであるように思えた。だから代わりに女魔術師はヴェニーを目の届くところに置いた。
ヴェニーは食事を運ぶ。彼女は調理に手をつけない。ヴェニーは食器を片付ける。手袋をはめた手は包丁を握らず、調理に関わることのない指は火を起こさない。『使わない』。使わせてもらえない。ヴェニーは今日も食事を運ぶ。乾いたグラスに水を注ぐ。それこそが給仕の仕事であり、ヴェニーに与えられた枷である。
(続く)
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