魔法科のカロン
佳原雪
魔法世代の子供たち
魔法科のカロン
月の狂気にあてられた金の髪はボブヘアに、細い体躯と白い肌に幼い唇を合わせ、眼だけが老成した少年は名をカロンといった。
幼き体は知っている。魔法とは何か。古き血は覚えている。誰もが忘れた真実を。
『それ』は誰もが知るところではない。魔法使いは種族名だ。『魔法を使うもの』ではなく、『生来的に魔法を使う能力を持ち合わせたもの』、それこそが魔法使いといういきものだった。
全ては人の形をしている。魔法使いと人間に、大した差などありはしない。皆忘れている。世界の本当の姿がどういうものであったか。皆忘れている。思い出すことはない。
カロンは魔法科に所属する高校生だ。魔法学校というものは就職を念頭においた勉学を割合多く扱う教育機関である。資格を取り、免許を取り、魔法を使う。時代が下るにつれ人類が手にした強大な力を『安全に扱う』ために学ぶ。そういう学校だった。そういう学校に、カロンも通っていた。小さな体はそこそこ目を引き、またそれなりの無関心でもって迎え入れられた。カロンもまた、周りとそのように接した。そこには何の不都合も亀裂もなかったし、問題となるようなことも特にはなかった。
勉学に励み、ほどほどにさぼり、試験に受かり、落ち、魔法の練習をする。額面通りの『普通』。引っ掛かりのない学園生活。皆がそうしていた。そういったものに浸っていた。
しかしカロンは知っている。『魔法』が本来どんなものかを。無法を法に変える祝詞を、カロンはその目に残している。
身の丈が伸びないのはなぜか。軽やかなアルトの声がテノールへ移行していかないのはなぜか。手入れをせずとも滑らかな肌が、ずっとそのままなのはどうしてなのか。
『魔法』だ。『本来の魔法の力』がその体には作用している。そしてそれを、カロンだけが知っている。
魔法使いの家系に生まれた子供はみな、誰でも最初は魔法が使える。子供たちは彼らだけに見える妖精と友達になる。物心がつく頃になると妖精は遊びを通して、『安全』で『楽しい』魔法の使い方を教えてくれる。水面に移る月をすくうやり方、草の間を飛び回る風の声を聴く方法。星を挟んだしおりを本に挟むおまじない。そういったものに囲まれて子供たちは楽しい時間を過ごす。
幼い友達は一定の時期、彼らが学校に入るころになると、思い出の全てを背負って彼らのもとを去る。幸福だったという実感だけを残して。誰もが通る道だ。親も、その親も、きっとそのもっと前の世代も。誰もが通り、誰もが忘れる。それが古き血を引くもののさだめ。妖精の実在を論じる者はいなくなり、すべては幼いおとぎ話だ。
カロンだけが違う。カロンだけは、『妖精』の実在を覚えている。幼き日々を覚えている。星を輝かせ、花に彩りを与える魔法を、今なお使うことができる。使うことができる。妖精の存在を心にとどめておくことができる。彼のクロゼットの中には、『妖精の死体が入っている』。
(つづく)
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