第87話 遭遇戦

前書き


一週間ほどお休み頂きました、投稿再開します!

元々1日1話投稿など、書き物初挑戦で分不相応だったと反省しつつ

これからは週2話~3話のペースで書き進めて行きたいと思います

宜しくお願いします!


ロクマルJ


――――――――—————————


一行は中央制御室を後にし

再び大型リフトに乗り込むと

上層へとゆっくり上昇を開始する


途中、制御室の壁や横に通ずる一室には、

見た所非常に状態の良い携行装備類をヴァレラが発見し

どうするか確認したが、皆、手を付けず

残していくという結論に至り、その場を後にした


ゼロス・プロメにとっては既存技術の通常兵器であり

旧人類の最高の技術の粋を集めて作られた

ゼロスの装備からすれば無価値に等しい物だった


また、地上に持ち帰ればそれなりの収入に成るとは思われたが

資金は必要とあらば貴族から幾らでも巻き上げられる物である

従って無用の長物であった


セルヴィはと言えば

元々古代の文明やその技術の探求が

彼女の追い求める所ではあるが

一般的な冒険者の様に、遺跡からの収入が目当てな訳ではない


そしてやはりつい先ほど、モニター越しの記録とは言え

直接目にした人達の遺品と呼べる様な物を不必要に持ち出すのは

思う所があったようだ


プロメはともかく

ゼロスも、先に述べたそれらしい理由は建前であり

何か思い故があった選択なのではないかと

ヴァレラは推し量る


遺跡探索自体が故人の遺品を散策と同義である以上

それは詭弁でしかないのだが、人間とは不合理な生き物である



ウィィィン...ガコン...



ヴァレラがそう頭を巡らしている間に

大型リフトは元来た5階格納庫へと到着する


全員が下りるとプロメがハッチ横のコンソールに手を掛ける


ピピッ...ゴゴゴゴゴゴゴ...


メインシャフトに通ずる巨大ハッチが再び

轟音と共に閉じられてゆく


程なくしてその扉は完全に閉鎖される

この時代の者には再びただの壁へと姿を変えた


「システムロック完了...

 これで仮に操作方法を知っている者であっても

 もうそう簡単にこの扉は開けられないはずよ」


コンソールから手を離しプロメが告げると

ゼロスが僅かに頷き、歩み始め、皆後を追う


再び広い格納庫の中を、一行の足音が響き渡る


「...ありがとね」


歩き始めて暫くすると、突然ヴァレラが小さく呟いた


「ん、どうかしたか」


ゼロスが振り返る


「前にこの子セルヴィから聞いたわ

 あんた達、私達の施設でもこんな風に

 最下層の件は報告しなかったり、

 そっとしておいてくれたんでしょ


 元々あたしの時代何て碌なもんじゃ無かったし

 仲間つっても嫌な奴ばっかりだったけどさ

 それでも一応、肩並べてた奴等が眠ってたのよ

 だから、ありがとね」


最後の方、ヴァレラの目が泳ぐ


「必要があれば、墓を暴く様な事もするだろう

 だが、そうでない範囲であれば、

 死して尚人の尊厳は尊重されるべきだ

 少なくともそれが出来る余裕がある内はな」


「はいはい、どうせあたし等の施設なんか

 あんた等からすれば利用価値のあるモノ何て

 何一つありませんよーだ」


両手を頭の後ろに回し顔を背け

わざとらしく拗ねて見せるヴァレラ

それが照れ隠しである事はセルヴィにも分ったようで

隣で微笑ましく見つめる


「俺はまた何か彼女を怒らせるような事を

 言ってしまったのだろうか?」


一人分かっていないゼロスがプロメに視線を送るも


「勉強」


と、一言返されてしまうのであった


そんなさなか、右肩から垂れるタマの金属製のしっぽが

フリフリ左右に振られる様が、

シリアスなゼロスと相まって微笑ましい


格納庫区画を出ると、再び衛兵と軽く言葉を交わし

そのまま真っ直ぐ出口へと進む


その後奥へと向かう冒険者らとすれ違いながら

順調に地上へと期間を果す


遺跡から出ると再び検査所で出入管理を求められ

遺跡から持ち出した遺物が無いか検査される


その時、ゼロスの肩の上のタマの姿が兵士の目に留まる


「それは...遺物か? 猫の置物...?」


兵士がまじまじと顔を近づけて観察する

タマはまるで置物の如くピクリとも動こうとしない


検査所を通る直前、セルヴィに


「いいですか、タマ、絶対動いちゃダメなのですよ!

 少しの間だけ静かにしていてくださいね?」


ฅ^•ω•^ฅモキュ!


というやり取りを行っていたが、

この猫型デバイスは認識してそれを行っているのか

本当に此方の言葉を理解しているのではないかとゼロスは疑問に思う


「神器...という訳でもなさそうだな、

 特に価値の無い置物だな

 よし、問題ない、通っていいぞ!」


ともかく、おかげですんなりの通過の許可が出る事となった

隣の検査所を除くと


「B級神器遺物2点、C級金属素材5点 不明品1点、だな

 銀貨5枚銅貨15枚だ

 不明品については国家指定の魔技工房で鑑定を受けた後

 魔技研に鑑定結果を報告の上、指示を仰ぐように」


検査官が冒険者達が並べた遺物を前に淡々と告げると

書類を何枚か記入し手渡していた


恐らく最下層から何か持ち出してきて居れば

厄介な事になって居ただろう。


一行が胸をなでおろしていた時


「皆様ぁー!!」


見覚えのある男が、手を振りながら

真っ直ぐこちらへ駆けて来る

貴族に仕える警護兵の男だ


その男の背後、翔けて来た先には

立派な白馬が繋がれた、亜人の村に

貴族が乗って来た物に勝るとも劣らない、

煌びやかな装飾の施された馬車が待ち構えていた


「プロメ様御一考様!ヴァンデルス卿の命により

 お迎えにはせ参じました!」


「や、やっぱり...」


笑顔に汗を浮かべながらセルヴィが呟く


「プロメ様名指しって...もしかしてあの貴族

 あんたに気があんじゃないの...?」


「ま、まさか...あんな目にあってそんな事は...」


ヴァレラとセルヴィがそんな事を言っていると


「あながち間違ってないかもしれないわね

 ストックホルム症候群―…

 良く言うじゃない?誘拐された少女が

 極度のストレスと束縛で誘拐犯に恋してしまうって話」


「少女じゃなくておっさんだけどね...

 しかしそれ、自分で言う...?」


「お、大人の世界は深いのです...」


「おほほほ」


まるで他人事のようにサラっと語るプロメに対し

呆れるヴァレラと複雑な表情を浮かべるセルヴィ

そして横で聞いて居たゼロスが口を開く


「乗るか?」


「私は屋台に寄りたい!」

「街を見て帰りたいです!」


「情報収集がてら、徒歩でもいいんじゃない?」


ゼロスの問いに素早く答えた二人に続き

プロメも肯定する


「という事だ、すまないな、俺達は徒歩で屋敷に向かう」


「し、しかし...」


ゼロスの返答に困った顔を浮かべる警護兵


「大丈夫よ、貴族には私から直接

 貴方はしっかり役目を果たした

 私達は自分の意思で断ったと

 念押ししておいてあげるから」


「は、はい!ありとうございます!

 皆様、道中お気をつけてお戻りください!」


男は安堵の表情を浮かべると

一礼し再び馬車へと駆けて行った


「あの人たちも大変よねぇ...

 さっ、じゃあ日が暮れる前に散策に行きましょうか」


「おーっ!」

「はいっ!」

ฅ^•ω•^ฅキュイ!


こうして一行はバセリア市街の散策へと向かう



―――――――――


時刻は夕暮れ時


「ぷふぅ!やっぱこの時代の食べ物は美味しいわねぇ!」


口に串を加えながら両手いっぱいに

料理の入った紙袋を抱えるヴァレラ


「大丈夫ですか?少し食べ過ぎですよっ」


セルヴィの言う通り、ヴァレラの腹部は少し膨れていた


「大丈夫大丈夫、屋敷まで歩く間に消化されるわよ!」


「まったくもう...ヴァレラさんが

 どうしてそんなにスリムなのか不思議です...」


「食べた分運動すればいいのよ」


「うぅ、何か納得出来ません!」


そんな後ろのやり取りを

微笑ましく思いつつ、前を進むプロメ


「何か手掛かりはあったか?」


その隣を歩くゼロスが成果を問う


「残念ながらこれと言って有力な情報は無いわね

 変わらずあの貴族が精力的に亜人に対する

 支援を取り付けてるって事くらいかしら

 地下の遺跡のアンドロイドに

 関する様な情報は得られなかったわ」


「そうか」


「取り合えず情報は得られたのだし

 一旦屋敷に戻ってから今一度

 今後の目標については話し合いましょう」


「了解した」


一行はやや狭い人気の少ない小路地を進む

大通りからは外れているが

貴族の屋敷までの最短ルートである事と

フルメンバーが揃っているのだ

多少の治安の悪さは問題では無かった


また人通りが少ないとは言え、時たますれ違う人の姿もある


そんな時、セルヴィより一回り小柄であろう

全身茶色のローブとフードに身を包む少女らしき者とすれ違う

何という事は無いただの通行人とのすれ違い

そこに特別意識する物は居なかった


一行とすれ違い半歩距離を空けた瞬間

ローブを纏った少女がピタっと突然動きを止める


「変異種...確認...」


小さくそう呟くとグルリと顔を回転させ

一行に振り返ると、フードがはだけ少女の顔尾が露わになる

見開かれた瞳には何の感情も宿さず一点を見つめ

そのまま流れる様な動作で背後からセルヴィの胸元目掛け

一切の躊躇無く、手刀を振りかぶる


その手がセルヴィの背に突き刺さろうとした直前


ガキィ!! ギギギギギ...


重い金属のこすれ合う嫌な音が鳴り響く

皆がその音に慌てて振り向いた時

ゼロスが一瞬で背後へと周り、

小さな少女の細い手首を、掴み上げていた


しかしそんな光景とは裏腹に、

ゼロスの表情は驚きの色に染まっている


何故ならその小さな手首を握る力は既に

バルザックの街で暴漢の腕を握りつぶした時以上に

込められているにも関わらず、

その細腕はびくともしなかったからだ


寧ろ、それ程までに力を籠めなければ止められぬ程

それは確実にセルヴィの胸元を貫いていた力を有していた


「貴様...何者だっ!」

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