第86話 猫型ロボット?

ゼロスが箱の中の物を両手でつかみ上げ、振り返る


「...猫?」


「猫ね、」


「猫かしら」


3人が全く同じ反応を返す


ゼロスの手の中に納まっていたモノ、それは

機械で出来た猫だった。


猫本来の動物としての姿ではなく

ぬいぐるみやマスコットの様なデフォルメ化された

全体的に丸みを帯びたデザインでかわいらしい


「どうだ?」


ゼロスは手に持った機械の猫をプロメに向けると

プロメはじっと観察し、程なく口を開く


「驚いたわ...そのデバイス、

 表面はあなたのスーツに引けを取らない

 レベルの強度を持つ合金で作られてるわ...

 対電磁防御も徹底されてるみたい 


 けど、武装らしきモノは確認出来ないわね

 エネルギー反応も0、外部からエネルギー供給を受けない限り

 機能しない作りになってるみたい、

 とりあえず危険は無さそうよ」


「そうか、これは一体何の為のデバイスか分かるか?」


「残念ながら現状ではこれ以上は解りそうにないわ

 内部はかなりの高密度回路が組み込まれてる様だけど、」


「危険は無いんだな?」


「限りなく」


AIとしてあらゆる可能性を考慮した場合、

完全な0では無いが、現実的にまず許容内という事だろう


「分かった、起動は出来そうか?」


「電力供給の規格は人類連合共通規格だから

 スーツから供給可能よ

 必要とする電力量も、あなたのリアクターなら

 0.007%未満、全く影響のない程度で十分よ」


「了解した」


そう言うとゼロスが手近な台の上に、機械の猫を置き

万が一に備え、1歩下がり、後方の彼女達の盾に成る様に位置取る


「やってくれ」


「了解、スーツより供給プロセス開始

 エネルギーラインの構築を確認

 同期完了、エネルギー供給開始」


すると台の上に置かれた機械の猫の

目に当たる部分が瞬きをするかのように

チカチカと点滅を開始し、ほのかな水色の光が宿る


そしてゆっくりと体を起こし

目の前にゼロス達を見回し始める


キョロฅ^•ω•三•ω•^ฅキョロ


「か、かわいいっ...」


思わずセルヴィが漏らす

隣のヴァレラもやや頬を赤らめ、うずうずした様子が伺える

どうやら二人は猫好きの様だ。


ฅ^•ω•^ฅ ジー…


やがて一行をじっと見つめ、口に当たる部分のパーツが動き

鳴き声を発そうとしている事は誰の目にも明らかだった

その瞬間思わず息を飲む二人


「モキュ?」


ガクン


予想していた鳴き声と大きく違ってい為

ヴァレラとセルヴィが一瞬崩れ落ちそうになる


「にゃーん、じゃないんですね...」


「猫...よね...?」


ฅ^•ω•^ฅ ?


首を傾げながらざわつく二人を見つめる機械の猫


「はわぁあっ」


「んんっ...鳴き声はともかく、猫でいいわよね」


次の瞬間そんな疑問はどうでもよくなった様だ

そして尻尾をふりふりしていたかと思うと突然


「キュィ!」


猫が置かれていた台の上からジャンプし

ゼロスに飛び掛かった


咄嗟に対処しようと僅かに両手をピクリと動かしたが

すぐに攻撃ではないと判断し動作を止めるゼロス


猫はそのままゼロスの左の肩元へと飛びつくと

クルリと後頭部から回り込み

右肩へともたれかかると頭を顔に擦り付けて来た


「キュィ!キュイー!」


愛玩動物が見せる友好的な好意の様だった


「あら、懐かれたわね」


プロメがその光景を微笑ましく見守りながら言う

その後ろでセルヴィとヴァレラがやや妬ましそうに視線を送る


「無事起動は完了した様だが、何かわかったか?」


猫を肩に乗せたまま、意に介さずゼロスが当初の目的を確認する


「残念ながら、中に眠る情報にはアクセス出来なかったわ

 どうやらその子はある特定の対象にのみ物理的に接続可能な

 専用デバイスとして造られてるみたいなの

 恐らく記録の話から察するに

 彼が最後に産み出した特殊アンドロイド、個体名ALICEにのみ

 適合する様に出来てるのでしょうね

 分解すれば情報を取り出せる可能性もあるけれど...」


プロメがそう言うと後ろから

目を潤ませ今にも泣きだしそうな物と

そんな事は絶対ゆるされざるよと言う二つ視線が

ゼロスに突き刺さる


「...情報としては恐らく男が言う内容であれば、

 無理して墓を暴く様な事をしてまで取り出す必要は無いだろう...」


「了解よ、でもこの子、どうするの?」


「...」


プロメの確認と共に、再び、その背後から二人の視線がゼロスに向けられる


「先に逝ってしまった彼等の願いだ、

 本来の持主に渡せる可能性は低いかも知れないが

 ここに残すよりは、扱える俺達と一緒に

 連れて行った方が良いだろう」


「モキュ!」


知ってか知らずか、肩で猫が喜ぶ様に一声上げた

同時にセルヴィの表情が花が咲いた様に輝き


ヴァレラも顔を背けてツンケンしている様に見えるが

何処か隠しきれておらず

内心嬉しそうに僅かに口元がニンマリしている


「じゃあその子の名前は何にしましょう!」


「名前...?」


突然のセルヴィの提案に、不思議そうな顔を浮かべるゼロス


「そうです!これから一緒に行くなら、

 その子にも名前が必要だと思うのです!」


大戦前の人類は愛玩動物と共に生活し

それらに名前を付けていたという

この時代の街でもそうと見られる動物を見かけた事があった

セルヴィにとってこの猫型デバイスは

同じ様な存在に見えているのだろうとゼロスは納得する


「...俺には浮かばないな...いい案があれば任せる」


「そうね、猫型ロボットになぞらえてドラえ『モッキュン!!』

 …あら、気に入らないみたいね...」


猫の鳴き声が【それ以上は行けない】と言うかの如く

プロメの言葉を遮った

少しいじけて見せるプロメ


「タマ!何てどうでしょう?」


「またベタな名前ね、ってかこの時代でも

 猫はそれなのね...まぁシンプルイズベスト、いいんじゃない?」


「TAMA...球体を指し示す言葉ね

 確かに見た目通りでいいんじゃないかしら?」


ヴァレラ、プロメ共にセルヴィの案に賛成する、

そして3人の視線は残る一人へと向けられる


「...俺は何でも構わない」


「むっ!名前は大事な事ですよ、

 どうでも良いという感じは良くないと思います!」


珍しくグイグイ来るセルヴィ


「そ、そうか...すまない...

 自分でも良く分からない...が、悪い気はしないと、思う」


ぎこちなくどうにか答えを返す


「ありがとうございます!」


答えに満足したのか、満面の笑みを浮かべるセルヴィ

横でプロメが小さく笑っている

彼女はこういう時に補助して助けてくれない


そしてセルヴィが駆け寄って来ると

ゼロスの肩に乗るタマを見上げながら


「あなたはタマです!

 これからよろしくなのです!」


ฅ^•ω•^ฅ「キュイ!」


こうして一行は新たなる手掛かりと謎を手にし

小さな新たな仲間を加え、遺跡を後にするのだった

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