第8話 逃げる私

今まで仕事でこつこつ貯めたお金を使って、そうだっ。どうせなら語学留学も兼ねて行こう。ハワイで通う語学学校も決めて、ホームステイ先も決めて、その後に一人暮らしするコンドミニアムも決めた。マヌーのハワイの本をバイブルに。


自分が壊れてしまわないための選択。冷静な判断を失っていたかもしれない。でも、もう決心していた。


彼にはメールで告げよう。彼を忘れるためには、彼に逢わない状況を作るのが一番だと思った。私の所在もしばらくは分からないだろう。寂しさはあったけど、これからの生活に対する期待の方が大きかった。


なるほど。辛い決断をする時には、それ以上に大きな喜びや楽しみを用意しておくと、意外とすんなり行くのかもしれない。


「川口さんへ


私は思い切って、貴方にサヨナラすることに決めました。貴方と一緒にいると、すべてが欲しくなる。でも、手に入らないでしょう?私は仕事も辞めます。今までの青い車も乗り換えます。きっともう私を見付けられないよ。」


後日、マンションの鍵を入れた封筒を送った。彼からは何の連絡もなかった。

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