現住所 横浜市緑区十日市場特別刑務所内〜新しき地球儀〜

よろしくま・ぺこり

第1話 はじめであっておわりでもあるというまぬけの話

 やあ、おいらです。


 ? ……なんだろう? この空気の重さは……

 あれ? 何か声が聞こえる。

「お前、死んだんだろ? なんで、のこのこ出てきてるんだ!」

「ぺこりさん。成仏できないのね。それで幽霊になって……」

「まだ前作、読み終わっていねーよ。新作出すの早すぎ」

「躁状態、治っていないんじゃないの?」


 うーん、皆さん勝手なことをおっしゃいますなあ。


「これ、自作自演でしょ?」


 うわあ、いいとこ突いてる人がいる! ペンネームは……河童黄桜……ああ、身内のリークね。あとで会ったら、あいつのお皿、ハンマープライスしてやろうっと。代わりの皿はニトリで買ってやるわ。おいらさあ、ニトリの製品をあまり信用していないんです。安いから人気あるみたいだけどね。皮膚科で眺めた奥様雑誌だったかな? それではニトリの人気と信頼度が高かったんですよ。それに比べて、おいらがカラーボックスを買おうと思っている無印良品はお値段が高いからですかね? 人気も信頼度もかなり低い。でも、カラーボックスに関していえば、無印さんの方が丈夫で長持ちですよ。だって、十何年も前に買ったカラーボックスが今だに使えるの。おいら、ガムテープ貼ったり、いろいろ乱暴に扱ったけれど、外観はともかく、板の部分は問題ないから、おいらずっと使用するよ。


 えっ、なんですか? いきなり話をそらすな、あの日の真実を語れですかあ。うーん、あんまり言いたくないなあ。だって、おいらずーっと、誰かに監視され続けているんですもの。まあ、たぶん、公安の関係者でしょうね。今はおいら、大人しくしているけれど、いつ何時、悪の権化になるかわからないじゃないですか? 監視カメラもね、最新式のが、おいらの見えないところで作動しているそうです。なんで知っているのかって、決まってるでしょ。公安にだっておいらの密偵はたくさん入り込んでいますよ。


 まあ、いいや。お話ししますよ。もう少し近くによってね。そこの美しい女子大生さん、なんならおいらの横に座りなさいよ。一応聞いておきますが、あなたは公安のイヌじゃあないですよね。うん、ならいいわ。ハニートラップにかかりやすいから、おいらときたらさ。


 でも、前作品の最終回というか大団円の最後の方をきちんと読めば、おいらの死刑が失敗だったってわかりますよねえ。かっぱの報告にあった、奈落に落ちる瞬間においらがニヤッと笑ったってところや、ドスンという落下音。救急車を呼ぶ悲鳴。落下音はおいらが地面に叩きつけられたものだし、救急車を呼んだのも、おいらですよ。要するに、縄が切れて、おいらは頸の骨も折れず、窒息もせず、落下したってこと。もちろん、普通なら、あの縄は切れません。おいらのところの工作員が密かに切り込みを入れただけのこと。あとは念のため、おいらは体重を増やしたの。はい。刑務所の食事で太れますかという質問ですね。もちろん太れません。夜中にね、大量のポテトチップスがおいらの口に入ってくるのよ。そう、工作員の仕業だけど、あれはあれで地獄よ。死んだ方がマシって思ったもの。そのおかげで百キロ超えですよ。そいでさ、今だに体重が戻んないのさ。ライザップに行こうと思っていたけれど、あそこ業績悪いんでしょ。M&Aかなんかやってさ。日本で企業買収はうまくいかないよね。アメリカ人とかみたいにサバサバしていないじゃん、日本人って。自分の会社に執着するから、あんまりM&A自体聞かないし。企業としての方針を間違えたね。やっぱり本業を大事にしない会社は日本国では成功しません。以上、経済アナリストのぺこりでした。

 まあそれは冗談として……ああ、おいら経済学部だったよ。別に経済アナリスト名乗っても経歴詐称にはならないな。えっ、マル経だろだって? ああ、何か問題でも? まあいい。おいらがさあ、床に沈んで苦しんでると、山下のヤツと所長が飛んできたわけ。でね、山下の馬鹿野郎、所長にこう命じたんだ。「誰も見ていない。あなたがぺこりを絞め殺せ」ってね。でも、所長は偉かった。「処刑は一人一回のみ。失敗に終われば、無罪放免なのは古代からのこの国の慣習です!」と毅然といったのさ、素晴らしい男だよ、所長はさ。だから彼には固有名詞を差し上げたの。渥美所長ってね。それに比べて山下の野郎の大人気ないこと。「なら、俺がやる!」とか言って、おいらに迫ってきたわけ。おいらさ、足が痛くて動けないの。やばいと思ったね。そしたら、刑務員や看守の方々、そして、教誨師役の坊さんが駆け込んできたの。坊さんが強いんだよ。びっくりさ。山下を背負い投げで床に叩きつけて、ノシちゃったの。もちろん、坊さんにも固有名詞つけたよ。笠和尚ってね。

「山田洋次監督に叱られませんか?」

 いやあ、まずあの方が、この駄文に気がつかないでしょう。


 まあ、無罪になったけどさあ、おいらこの刑務所が気に入っちゃったんだ。だから、今後もここに住むことにしちゃった。これは公には秘密ね。もちろん、独居房なんて嫌だから、組織の金をちょっとだけくすねてさ、大リニューアルしちゃったんだ。おいらとうぶんここに暮らすつもり。

「何をやって暮らすんですか?」

 そうねえ、とりあえず、寒い間は読書したり、TV観たり、ラジバンダリ……古い? カクヨムに駄文書いたりね。でさあ、お花の季節になったら、元妻に強引に連れ出してもらってさ、梅だの桜だの、あとは名前知らないけど、眺めてねえ。当然、病院には行くよ。精神科、内科、皮膚科それから歯科にもできたら行きたいね。

 夏は、暑いからさあ、今年はエアコン使っちゃうかもなあ。やっぱり、地球は温暖化しているよね。あんまり暑いと、あの、気の狂った夏を思い出すよ。特に、台風が来て、精神が完全に壊れちゃった恐怖の夕方。あの恐ろしさは忘れられない。

 秋は紅葉を見たいけど、最近、色づきが悪いよね。秋が夏と冬に押し込まれている感じ。

 ああ、一年経っちゃった。

「要するに、ずっとグダグダしているってことですね?」

 まあね。区役所のケースワーカーさんがそれを許してくれればだけどさ。いまの担当者、おばあちゃんだって前作で言ったよね? なんかさあ、四月までの繋ぎって気がするんだよ。また、担当が代わる。今度こそ、鬼が来るかもしれない。もしくはなまはげ。一番嫌なのは精神をついて来るヤツ。また寝込むよ、そうしたらね。

 まあ、おいらが心から楽になれるのは、死ぬときだろうな。いっそ、死刑になったとき……まあ、もらったような生命だ。いっそ、寺に入って、国民のために祈りたい。

「座禅できます?」

 ムリですねえ。


 さて、ご覧いただきありがとうございました。次回以降はまた、時事ネタを中心に漫談……ではなくて、基本、エッセイを書きたいとおもっちょります。でも、また、フィクションが芽吹くかもしれません。ご不満のある方はトップページに戻って、確認してください。これは、クロスオーバー小説です。カクヨムはエッセイも小説で括っていますから、ノープロブレム。

 では。

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