ギャンブル税

nobuotto

第1話

 親子代々の独裁国家Nの最高指導部はギャンブル税の導入を国民に告げた。

 国家主席は最高指導部へなんとしても税収を倍増させるよう命令した。これ以上消費税をあげると現政権を覆すような反乱が起こりかねない。国家主席と国民の板挟みになりつつも国家主席の意向こそ最優先という鉄則の元に最高指導部が絞り出した解答がギャンブル税であった。


 二十歳以上の国民全員が必ず参加しなければならないゲームに課せられた税がギャンブル税である。ゲーム自体は非常に簡単であった。スマフォアプリ「国民の幸せ」に毎週開始連絡が送信されゲームは始まる。

 アプリには縦五個横五個、つまり二十五個のボタンがあり、好みの数だけ押す。このゲームの使用料として二十歳以上の国民は毎週百円、年間で五千五百円を税金として強制的に徴収される。N国の二十歳以上の人口は約一億人近いので、毎週百億、年間五千五百億円以上の税収となり、この五分の一が賞金として還元される。一億人近い国民の場合、国家主席が押したボタンの組み合せに一致するのは十人計算になる。

 この十人が国家主席に祝福された当選者として均等に賞金が支払われる。毎週二十億円が当選者のものとなるため、単純計算すれば平均二億がたった百円で手に入ることになる。スマフォを持っていない、または使えない人には往復はがきが送られてくる。

 ギャンブル税に内心反対している人もいたが表立って意見を言うことはできないし、どうせギャンブル税を払うのであればと誰もが「国民の幸せ」アプリのボタンを押すのであった。

 当選番号は毎週土曜夜にテレビ、ラジオの国営放送「主席様の祝福」で発表される。

「国民の幸せ、国民の幸せ、祝福されるのは誰だ、誰かな、だーれでしょう」

 というメロディーが流れアナウンサーが当選番号を絶叫する。

 最高指導部の予想を遥かに超えて国民はこのゲームに夢中になった。

 ルールは単純で当選額は大きい。最初は下品、ださいと影では言われていたメロディーも、毎週聞かされているうちに頭に染み付き、大人も子供も自然に「誰だ、誰かな、だーれでしょう」と口づさむようになった。

 連続当選したおばあちゃんは「強運の女神」としてテレビで取りあげられ宗教団体の顧問に就任した。必勝法と銘打つ本が何冊もベストセラーとなった。人工知能で当てたという大学教授は「数式を使わない国民の幸せ当選理論」という講義を複数の大学で開講した。

 この人気を背景に週百円が百十円、百二十円と半年毎に上がっていったが、たった十円の税の増加を誰も気にすることはなかった。


***


 最高指導部の前に満面の笑みで国家主席が現れた。

「君達の素晴らしい政策によって潤沢な資金が生み出された。これによって我が念願が叶う時が来た」

 国家主席の合図で壁一面に映し出されたのは、国を救済する究極兵器と言われているDONDON5号であった。

「今こそこのDONDON5号を発射する時が来た。勿論狙いはK国首都である。まさに我が国の歴史的瞬間である」


 主席の話を神妙に聞いているふりをしている最高指導部の誰もが同じ気持ちだった。

 K国首都まで本当に飛ぶのか。

 途中で落ちれば世界の笑いものである。

 それより相手国に落ちれば計り知れない犠牲者がでる。

 いずれにしろ国家主席の名前は狂気の独裁者として歴史に残るであろう。さっさとボタンを押して、歴史に汚名を残せばいい。いざとなったら家族、財産共々この国から出ていけばいい。

 そう思いつつ皆笑顔で拍手するのであった。


「そこでだ。最初は私がこの発射ボタンを押そうかとも思ったが、これまでの君達の働きに敬意を表し誰かに発射ボタンを押してもらうことにした」

 最高指導部の顔が一瞬にして青ざめた。

「まあ、名誉あることなので、自分がと手を挙げるのは難しいであろう。そこで私は考えた」

 最高指導部の前にボタンが並べられたテーブルが運びこまれた。

「この中のひとつが本当の発射ボタンである。みんな一斉に押してくれ。この最高の運を掴んだ者は私と共に英雄として世界に発表されることになる」

 手が震えて誰もボタンに押すことができない。国家主席が激を飛ばす。

「遠慮することはない。皆、一斉に押すのだ」


 そして部屋中にあのメロディーが流れ始めるのであった。  

「国民の幸せ、国民の幸せ、祝福されるのは誰だ、誰かな、だーれでしょう」

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