七福神

nobuotto

第1話

「暇だあ、暇だあ。暇だと何度言ってもやっぱり暇だあ」

 今日も日永一日池で釣り糸を垂らしている恵比寿は、ため息混じりの愚痴をこぼしておりました。

 恵比寿がこの地におりて既に300年が経ちました。

 

 国ができて以来、多くの多くの神、八百万の神が生まれました。由緒正しい神もいれば、由緒正しい神の気まぐれで生まれてしまった神もいます。

 こうした八百万の神は、神力判定試験によって赴任先が決まります。成績上位者は、天界へ上り出世街道を歩みますが、そうでない神は地上へばら撒かれます。

 そのなかでも、まだましな成績だった神は、国内の主要神社地区に赴任できますが、落ちこぼれ組は、可もなく不可もない土地へ適当に割り当てられるのでありました。

 落ちこぼれという判を押された神は、神としてのプライドは傷つくわけですが、実際その程度の神力なのでしょうがありませんし、まあ、のんびり楽しく毎日を送るのもいいものだと割り切っておりました。そんな神の一人、一神?が、暇こそが平安、暇こそが天国と言って毎日を過ごしている恵比寿でした。


 しかし、そうは言っても、そんな生活もあまり長く続くと流石に気が滅入ってきます。

「暇ってのはありがたいですが、何百年も続くと、これもまた辛いものですなあ」

 同じように、この地に赴任していた福禄寿が、毎日同じ時間に現れては、恵比寿の横に腰掛け、同じ言葉を恵比寿に言うのでした。

 赴任の時期は異なるものの、次々に同じ境遇にいる大黒天、毘沙門天、弁才天、寿老人、布袋も集まってきて、日永一日釣り糸を垂れる恵比寿を、これまた日永一日ながめて時間を潰すのでした。


 ところが、こんな平和な村に大災害が起こりました。地震が立て続けに起こり、その度に津波が来ては船が流されてしまい、山崩れで段々畑も埋もれてしまいました。まるでこれまで平和だった分を取り戻そうとするかの如き天変地異が、一挙に押し寄せて来たのでした。

 村人は逃げ惑いながら、恵比寿達に助けを求めました。しかし、こんな天変地異から人を救う神力があれば、ここに飛ばされてはいません。ただただ不幸に巻き込まれていく村人を見ていることしかできませんでした。天界へ助けを求めましたが、個別の事情に一々対応できないと相手にもしてもらえませんでした。

 村人も恵比寿達の実力が段々分かってきたので、今では何も頼まず、何も期待していません。

「神は神でも、役立たずの神ってのもいるもんだな」

 村人は、まるで恵比寿達がこの災難を持ってきたと言わんばかりです。


 あまり期待されるのは困りますが、かと言ってやはり神として何か人の役に立つことはやりたい。そう思った福禄寿は、皆を集めて言いました。

「せめて苦しみに沈んでいる村人を楽しませるため、みんなで力を合わせ出し物をやろうじゃありませんか」

 皆も直ぐに賛成しました。それは、決して暇だからというのではなく、村人に馬鹿にされて悔しいからというのではなく、誰もが福禄寿と同じように人の役に立ちたいという思いを持っていたからでした。


 イケメンの毘沙門天が得意な剣の舞を行い、愛嬌のある布袋が落語をやり、ちょっと強面の大黒天は、なんでも入る袋を使った奇術という演目に決まり、村人を集めて興行です。恵比寿は、得意な魚料理を見物客にふるまいました。

 始めは「セクハラ」と嫌がっていた美人の弁才天も、村のオヤジ衆の嬉しそうな顔を見るのが楽しくて、今では愛嬌一杯に、お酒をついで回ります。小屋が熱気で暑苦しくなると、寿老人が大きな団扇で涼しい風を送ります。


 天変地異で疲れ切っていた村人は、どんどん明るさを取り戻してくれました。村が落ち着いた頃、こんなに喜んでもらえるならと、恵比寿達は地方巡業を行うことにしました。喜んでもらえるツボというのが村々で違うので最初は苦労しましたが、場数を重ねるうちに、どんな村でも、どうな観客でも満足してもらえるまで腕をあげ、いまではどこに行っても満員御礼です。

 そして、地方巡業で儲けた金銭や、差し入れの品は、際限なく詰め込むことができる大黒天の袋にいれて村に持ち帰り、村の復興に使いました。

 今では天変地異が起こる前以上に、いや、どこのどんな村よりも明るく豊かな村になりました。


 もう誰も恵比寿達を馬鹿にはしません。 

 それどころか、村人は福をもたらしてくれた恵比寿達を、心から感謝して

「七福神」

と呼ぶようになりました。

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