遠い星にて

nobuotto

第1話

 黄色い茎の上には、紫の大輪の花がいくつも咲いている。そんな艶やかな花の回りを白と黒の蕾が順序よく並んでいる小枝が囲んでいる。

 彼が丹精込めて作ってくれた花束です。

 よく見えるように、彼は私の目の前まで持ってきてくれました。

「気にいってくれたかい」

 私は幸せな気持ち一杯で、彼を見つめます。

「じゃあ、僕らと一緒にいてもらおうね」

 彼は花束から一本一本取りだして丁寧に植えていきます。私は花壇に囲まれていました。彼が集めてきた花を植える花壇です。

「それじゃ、行くね」

 そう言って彼は去っていきました。

 私も彼について行きたいけど、私は動けません。私がどこにも行けないから、彼は私の分までこの星を歩き回って、花を持って来てくれるのでした。

 二人がこの星に来てから長い時間が過ぎました。とても長すぎて、いつここに来たのか思い出せません。私はずっと彼を見続けてきました。

 そして彼は、初めてこの星に来た時から今まで何も変わりません。ずっと優しいままです。


 この星の小さな虫も彼は持って来てくれます。小さな虫を大事に大事に手の中に包んで、何時間も歩いて私に持って来てくれるのです。こんな岩だらけの星のどこに、花や虫がいるのか不思議でしたが、きっとどこかにいて、それを彼は星中を歩き回って見つけて来てくれるのです。

「ほら、また友達が増えたね」

 そう言って、彼は花の上にそっと虫を逃してあげます。


 この星に来た時からずっと私と彼の二人だけでしたが、私はとても幸せでした。どんなに沢山の人の愛情を集めたとしても、彼の愛情の方が大きいのですから。

 彼の愛情に応えるため、私は精一杯彼を見つめ続けました。

 けれど、もう私の命も残り少ないみたいです。彼も気づいているようです。戻ってくると何日も私に話しかけてくれていたのに、最近はすぐに花や虫を探しに行ってしまいます。

 残りの時間がどれだけか分からないけど、私が生きている間は、もっともっと私に喜んでいてもらいたい。そう思っているようです。

 私は残りの全ての時間を彼と話していたいのですが、それは我がままなのかもしれません。

 だんだんと彼が見えなくなってきました。全然見なくなることもあります。もうお別れの時が来たようです。


***


「所長、限界のようですね」

「そうか、あの過酷な星で十年以上もよく働いてくれたものだ」

「十分なデータ量になりました。RX30のデータで、他のロボットの耐久性も向上させることができます」

「最終報告をまとめてくれ。探索ロボットのほとんどは行方不明になるのにRX30はいい仕事をしてくれたな」

「はい、CX10へ戻るプログラムは一応入ってますが、こんなに継続した例は初めてだと思います。RX30は、必ずCX10へ戻って来ました」

「時代遅れの単純なマシーンなのにな」

「RX30なのですが、細長い岩をたくさん抱えてきたり、石ころを大事そうに持ってCX10へ戻って来るのです。まるで…」

「ロボットがカメラにプレゼントするために、戻ってきたとでも君は言いたいのかね」

「済みません。私はいつもCX10からRX30を見続けていたので、感傷的になっているのかもしれません。自分でもよく分からないのですが、だんだんと岩や石が綺麗な花や虫に見えてきて」

「長くて大変なプロジェクトだったから、君も疲れているのだろう。最終報告書を書いたら休暇をとっていいぞ」

「所長。もうCX10は駄目なのでしょうか」

「今まで動いていたのが、それこそ奇跡だからな」

「そうですね。CX10は終わりですね。けど、それでもRX30はCX10にプレゼントを持ち帰り続けるのでしょうね」

「何を言っているんだ。とにかく君は、休暇を取りなさい」

 二人の会話はそこで終わった。

 そして、星からの映像も途絶えたのであった。

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