第65話

「じゃあ、もう絶対に駄目なの?」    吉永が訴えかける様に、リナを見つめて  聞く。リナの顔も険しく、引きつっている。「うん。」               「本気なの?」             「本気だよ。」             「本当に本気なの?」          「そうだよ、本気だよ!」        もう後には引かない。これしか無いんだ。「じゃあ、もう絶対に考え直さない?」  「うん、嫌だ。」            「絶対に?もう駄目なの?」       こうした押し問答がその後何度も繰り返された。そして最後に吉永が残念そうに言った。「分かった。」              リナは黙って吉永を見る。        「分かったよ。じゃあ、仕方無いね。リナ、僕、もう行くよ。」            そうしてリナの顔を寂しそうに見ると、振り返って駅へと歩いて行った。       アッ!心臓がドキンドキンする様な感覚。 良いの?!これで本当に良いのー?!   行ってしまう。もう今行ったら、これでもう最後だよ…。どうしよう?今ならまだ間に 合う。声をかければいいんだもの。    だが、できない。ドンドンと離れて行く。 声をかけようか。追い掛けて行って、腕に しがみつこうか?!そうしたら全て治まる。何でも無くなる。            リナの頭の中で何度もこうした格闘が繰り 返された。動いて、走って追いつく!だが 足を踏み出せない。その一歩が出来ない。 そこに足が張り付いた様な。       じゃ、まだ声を出して叫べば大丈夫。まだ 間に合う!だが、口を開けて声を出す事も できない。声を出そうか、どうしようか。 駄目、出来ない…。           そうした無言の格闘をしている内に、吉永の後ろ姿はどんどんと小さくなっていく。そしてついに駅の中へと消えた。       吉永の姿が見えなくなってからも、リナは そこにしばらく呆然と立っていた。    どうしよう?とんでもない事をしたんじゃ ないか?                特に母の言葉が、リナをそこに張り付かせていた。呼び止めたり追いかけたりしようとした時に、それが歯止めになった。その言葉が頭をよぎり、止めさせた。        だが、人が何を言ったって、そんな事を気にして!誰にだって欠点はある。だから普段 自分に優しいのなら、それで良いじゃないか?後は、余計な事を考えなくても良いの では?!                リナは目の前の駅へと走った。急いで券を 買い、吉永が乗る側のホームへと急いだ。 だが、吉永の姿は無かった。丁度、電車が 出たばかりだったから。         そしてリナは、小さくなり、消えていく電車を悲しく見送った。           そうして、リナは悲嘆にくれながら家路に ついた。智子が待ち構えていた。     「どうだったの?」           リナが疲れた様に母親の顔を見る。    「エッ?」               「どうだったの?!」          「ママが言った様にしたよ。ちゃんとに、 終わりにしたから。」           小さな声で返事をする。         「そう!あんた、それで良かったんだよ。 凄い良かったんだよ!!」        智子はとても嬉しそうだった。      リナも、そう思う様にした。       本当にそうなんだろうから。そして、吉永の事は考えない様に努力した。       だがそれから二日後、萌と明美が又小声で 吉永の話をする。そしてそれが又、部分的に聞こえてきた。 

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