第66話

「それでね、マリンちゃんに会いに行ったんだって。」               萌が話す。               「凄く真剣な顔で、用事があるから出て行くって言ってね。どこに行くか聞いても絶対に言わなかったから、千帆ちゃんも直ぐに、 マリンちゃんに会うんだって分かったって。」                「千帆ちゃんの所から行ったの?」    「そう。」               途中、良く聞こえなかったが又聞こえてきた。                 「だけどマリンちゃん、断ったって。絶対にもう駄目だって言ってね。」      「そりゃそうだよ!あそこまで言われたら。」                「そうだよね〜。それで又付き合ったら、 マリンちゃんも相当おかしいよねー。」 「それで吉永さん、今マリンに会いに行ったって、全部話したらしいよ。だけど…。」 決論としては、吉永はあの日リナと別れた後、千帆のいるマンションに戻った。   そして、今リナに会いに行き、縒りを戻す 様に頼んだが断られたと告げた。もし承諾 したら、千帆とは別れる事にしていたと。 だが絶対に無理だと断られた。だからもう リナの事はキッパリと忘れる、考えない様にすると。千帆だけを見て大切にすると。そして、リナの連絡先も目の前で処分した。  そして千帆は大変喜んで受け入れた。   彼女は、吉永がリナ宛に書いた手紙を発見 した時には泣きながら何度か問い詰めた。 あれは誰で、吉永とはどういう関係なのかと。そして頼むから自分だけを見てほしいと。だが吉永は何も言わず、上手くはぐらかしていた。               だから吉永が出掛けたその日も、凄く不安で仕方無かった。マリンと上手くいったらどうしよう、又くっついたら自分はいらなくなる。その居場所も無くなると。      だから吉永が早く戻り、その事を伝えた時には物凄く安堵して幸福感を味わったと、萌に話した。                リナは思った。確かに吉永は魅力的な男だ。だから千帆も本当に好きになったんだろう。恐らく骨抜きになった。だけど、自分なら そんな事を言われて本当に嬉しいか?他人の代わり、そしてその代理人として子供を産むだなんて…。だけど、これでもう完全に自分と吉永は関係が無くなったのだ。     それから又数日後、千帆が喜んでいる様子を二人の会話から聞いた。ついに吉永が避妊をせずに、コンドームを使わずに性行為があったと。それから、おでんとウーロン茶を夕飯に出したら今度は嫌がらずに喜んで食べた事も嬉しかったと。            それから少し経つと、二人が興奮しながら話していた。              「千帆ちゃん、妊娠したってー!」   「うわぁ、良かったね!」       「うん、凄く嬉しそうだったよ!」    そして又しばらくすると聞こえて来た。 「病院に行ったって。調べてもらったら、女の子だって!」             「うわっ、そうなのー?!」       「うん。それで吉永さんも、凄く喜んでるって。」                 リナはこれを聞いた時、とても複雑だった。吉永に子供?本当なら自分だった。彼の子供を産むのは。だが、自分からそれを放棄した。だから、自分の後釜になった女が産む 事になった。それだけだ。        分かってはいたが、やはりショックだった。悲しかった。              だが又少し経つと、今度は耳を疑った。  驚いた。   

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