第63話

「何?どうかしたの?」         吉永が笑顔で聞いた。いつもの優しい、好感のある笑顔だ。             たが、リナは見てしまった。ニヤリと笑ったのを。丸でやったぞ、上手くいったな、と 言う顔に見えた。            もしかしたら本当に只安心したからそんな風になったのかもしれない。もっと手こずると思ったら以外とそうでは無くて簡単だった。上手く、丸く収まった。だから安堵感や嬉しさで自然とそうした表情になり、別に悪い 意味では無かったかもしれない。だが、リナは自分が馬鹿にされているのかと思った。 やっぱりナメられてる?!        リナは今よりももっと若い。今ならそこ  まで、そんな顔を気にしなかったかもしれ ない。人間は誰でも当然打算がある。どんな人間関係も多かれ少なかれそうだ。    だからもっと面倒で大変だと思ったらそうでなかった、又は何か問題が上手くいった。そうしたらついそんな表情が出ても、おかしくもないだろう。だから今なら気にしないでそのままにしたかもしれない。自分を気に入ってるのは事実だ。自分を好きだし、自分も好きだ。                 だが、その時のその顔を見た途端、何か信じられなくなった。又、あの罵倒された時の、荒々しい、別人の様な吉永をまざまざと思い出した。                この人には二面性がある。警察に働いているからそんな風になるのかとも思った。   吉永の家系は警察一家だと聞いていた。父親や兄達、片方の兄の息子や親戚の伯父さん、男の従兄弟等も警察官だと話していたから。なら警察に向くし、好きなんだ。だから自分も子供を作ってその子を警察に入れたい、 その思いがとても強い。         だから、彼の性格もそうなんだ。強く、きつい性格。妥協しない、ある意味生真面目で 何かあれば許せない、激しい性格。だから 普段は優しくて物静だし、それも自分なのだろう。だが何かあれは豹変する。だからあの時の怒り狂った姿も、本当の姿。     リナは恐いと思った。好きだけれど恐いと。それと同時に、出て来る時に母が自分にかけた言葉を思い出した。これもずっと心に、 無意識に引っ掛かっていたかもしれない…。 

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