想い 2
途中で柏本が今野にLINEしてくれたおかげで、宿舎の前まで行くと玄関先に写真部の部員達が俺達3人を出迎えてくれていた。
「わざわざ顧問を届けてくれてありがとうな。でもできたら明日の朝の方が俺は良かったんやけどな」
「UNOで盛り上がっていたらしいやん。ダメ先輩やなー」
大北が笑いながら俺に声を掛てきて、顧問を支えてた場所を交代してくれた。
「夏向をいじめてないやろね?」
続いて今度は今野が絡んできた。
ほんとこいつうるせーわ。俺にやたら厳しくないか?
「いじめる訳ねーだろ!あ、でもそういや声掛けた時はなんか半泣きになってたな」
俺もまた言わなくていいことを口にする。
「また意地悪でもしよったんやろ、性格悪すぎ!」
「ちゃうわい、普通に見かけたから後ろから声を掛けたんやけど柏本が勝手に驚いただけや。そもそもまたってなんやねん」
確かにその姿を見て大笑いしていたのは事実だけどさ。
しかし今野は柏本の保護者かよ。ほんと柏本の世話焼きだなこいつは。
「絶対わざとやわ。いけずな男やけんね佐藤は!ほんと夏向もこんなののどこが…」
後輩の女子部員達が間を割って入ってきてお礼言ってくる。
「佐藤先輩、ありがとうございます」「先輩おつかれさまでした」
「いやいや全然全然」
後輩達は俺の優しさをちゃんと見てくれているようだ。
「佐藤~。きをつけて~もろれな~せんせいによろひくいってほいてくえな」
もはや先生は何を言っているのか半分わからない。
「ほれほれ、先生の介抱をそろそろした方がいいんじゃね?」
うるさい今野を手を振って追っ払う。
「言われんでもわかってるわよ!ほらみんな宿舎に戻るよ」
今野の合図で全員が宿舎へと入って行く。
もはや滑舌すら悪くなった森本先生は、写真部員達にやや乱暴に引きずられるようにして宿舎内へと消えて行った。柏本も振り返って俺に何か言おうとしたみたいだけど、一緒に引っ張られて宿舎へと入っていった。
写真部が全員中に入ったのを見届ける。
さっきまで賑やかだったがもう今は静粛に包まれていた。
写真部の部員達の姿を見て、俺は懐かしさと羨ましさを感じていた。
俺が所属していたサッカー部も年に数回合宿を行っていた
学校だったり、宿泊施設だったり。
昼間の練習はめちゃキツかったけど必死でみんなで励まし合ってメニューを消化してたよな。
夜になるとみんな交代で作った飯を食べて寝る前にはトランプで遊びながら騒いだりして。
あのメンバー全員で集まって、あんな風に一緒に過ごすことはもう無いんだろうな。
軽く息を吐いて俺は気分を入れ替えた。
左肩に掛けていたバッグを右側に掛け直し今来た道を引き返し海へと向かう。
予定より少し遅れたけど、俺のリベンジの開始だった。
気合いが入ってくるぜ!
夜道を下りながら目的地の釣り桟橋へと歩く。
途中、自分たちのコテージの前を通った時にクーラーボックスを持ち出した。
コテージ前から800メートル程で海辺に到着すると、すぐ目の前に釣り桟橋があった。
沖に向かって鉄製の桟橋が伸びていた。
足元は網目の鉄板が貼ってあり、そこから海が見える。
中央に等間隔に手すりと外灯が設置されていて、桟橋は夜中でも充分に明るかった。
俺以外にも夜釣りを楽しんでる人が何人もいた。
他の人達はサビキでアジとかを釣っているようだった。投げでキス狙いの人もいる。
バケツやクーラーボックスを覗くとみんなそこそこ釣果をあげているようだった。
100メートル程歩くと桟橋の先端に着いた。幸いなことに誰も陣取っていなくて、空いていた。
バックを降ろして、ロッドを取り出す。
二分割されたロッドを組み立てて、リールをセットする。ルアーを装着して準備完了した。
パンツの後ろポケットからスマホを取り出して、イヤホンを接続する。
少し激しめの音楽を選択し再生した。
うん、いい感じだ。
俺は沖に向かいルアーをキャストする。
俺の狙いはスズキだった。この時期は大物が釣れやすい。
なんかすげーのが釣れる予感がビンビンする!
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