第7話 宿屋にて ②

 ガチャン


 「……この部屋にもいないか」


 宿屋の一階、最奥に位置する客室の扉を開けたニートは、誰もいないことを確認した。

 一階の客室は、これで全て確認したことになる。


 「二階は彼女が探しているからな……ボクは三階に行くか」


 ニートは歩いてきた廊下を戻りながらそう呟き、階段を二階まで登ると、ふと魔王の娘が気になり廊下の様子を伺ってみた。






 「魔王の娘だぁ!?お嬢ちゃんがかい?」


 武器屋の驚きの声は、彼の客室に響き渡った。


 魔王の娘は武器屋のリアクションに満足した様子で「そうですよ〜!」と微笑み、自分が王立魔法教会から魔法村へ派遣されてきた経緯を説明した。


 「なるほどなぁ、教会が魔王の娘を…………ん?お嬢ちゃん、そういうことは口外して大丈夫なのかい?」


 確かに、いくら本人が無害とはいえ、本来なら王立魔法教会が敵対すべき “魔王” の娘を、魔法使いとして教会側が雇用しているのは如何なものか。


 「うーん、魔王の娘って言ってもね、私、魔王(パパ)と会ったことないんです……えーっと、詳しく説明しますね!」


 魔王の娘が語る、彼女と魔王、王立魔法教会の関係は、次のようなものだった。


 王立魔法教会とは、魔法に精通する者たちが集うこの国で唯一の「王立」魔法教会である。

 教会の筆頭である司教は、国王に同等に意見できるほどの地位を持つ。


 しかし、この国にはもう一人、国王級の地位を持つ者が存在する。

 それが、魔王なのだ。


 魔王は魔界の王であり、最強の力で魔族を率いる男である。

 魔界は、魔族や魔物、魔獣など、一般の人間が関わるとろくなことにならない者たちの巣窟であり、これらを管理する最高責任者が魔王ということになっている。


 魔王は最強の力を持つため、仕事は完璧にこなすことができる。

 しかし、魔王独特の気まぐれな性格が災いした結果、人間へ害をもたらすことも少なくなかった。


 そこで人間側は、産まれたばかりの魔王の娘を引き取り、王立魔法教会で最強の魔法使いとして育てる代わりに、魔界での悪行を慎むことを約束させたのである。

 言うなれば、前向きな人質だ。


 「まあ私、人じゃないけどね!」


 魔王の娘は語り終えると冗談めかしに微笑んだ。


 「そうだったのか……お嬢ちゃん、苦労してきたんだな」


 悲しい目をした武器屋を見て、魔王の娘は慌てて説明を付け加えた。


 「心配してくれてありがとう!でもね、私は物心ついたときからこうして人間側で生きてるから、全然大丈夫!……それにね、教会で働けて毎日楽しいって思ってるの!だって私、最強の魔法使いなんだよ!?」


 魔王の娘はキラキラした笑顔でそう言った。

 きっと、彼女の本心なのだろう。


 武器屋も少し納得したような顔で頷いたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る