第6話 宿屋にて ①
扉を開けると、中は薄暗かった。
入口がある部屋はあまり広くはなく、受付のカウンター以外には、四人がけの椅子とテーブルが一つ置いてあるだけである。
カウンターの奥には暖簾がある。
宿屋の者はその奥にいるのだろうか。
ニートは受付に設置されている呼び鈴を鳴らした。
チリーン……
返事がない。
「……あの……すいません……宿屋さん、いませんか……?」
「すいませーーーん!!誰かいませんか〜!?」
二人は声を上げたが、やはり返事はなかった。
「向こうに廊下があるみたいだよ!行ってみようよ!」
魔王の娘が指差す方を見ると、カウンターの横には階段と廊下があった。
きっと、その先に客室があるのだろう。
もしかしたらそこに、宿屋もいるかもしれない。
ニートはまず、今二人がいる一階を探してみることにした。
一階の廊下を進んでいくと、同じ造りの扉がいくつも並んでいた。
ニートは試しに近くにある扉を開けてみた。
「うん、客室だ」
客室の中には、ベッドとサイドテーブル、机と椅子、テーブルとソファーが、それぞれセットで配置されていた。
どれもシンプルな見た目であるが、目立った汚れなどはなく比較的綺麗だった。
「う〜ん、ここにも誰もいないみたいだね」
魔王の娘は残念そうに呟いた。
「そうだね。客室はたくさんあるようだし、手分けして探したいところだけど……君は大丈夫?」
廊下を見渡す限り、一つの階には10部屋の客室があるようだ。
宿屋の外観からこの建物は三階建てであることを知っていたニートは、手分けして一つ一つの客室を探した方が効率的だと考えた。
「もちろん!それじゃあ私は二階に行ってくるね!」
魔王の娘はそう言うなり颯爽と駆け出して行った。
廊下をパタパタと走る彼女の足音は、階段を登り、次第に遠くなっていった。
宿屋の一室には、男が一人寝ていた。
男の肌は浅黒く、筋肉質で頑丈そうな体をしている。
男が横になっているベッドの脇には、武器や防具、装飾品などが散らばっている。
これらは彼の商売道具であり、この男は武器屋である。
ガチャン
扉が開く音がした。
ベッドでうたた寝をしていた武器屋は、その音に気がつき目を覚ました。
「ん?ああ……寝てたか。……ったく誰だ?俺の睡眠の妨害をする奴は………………………っ!?」
武器屋が起き上がると、そこには魔王の娘が目を輝かせて立っていた。
「わぁ〜!人がいた〜!!」
魔法村に着いてから、ニート以外の村人を初めて発見した魔王の娘は、驚きと喜びでいっぱいのようだ。
だが、魔王の娘の事情を全く知らない武器屋からすると、勝手に自室へ入ってきた美少女が自分を見てはしゃいでいる、という意味不明な状況であった。
「……おい、お嬢ちゃんは一体誰だい?俺に何か用でもあるのかい?」
武器屋は自分が厳つい見た目であることを承知しているため、なるべく魔王の娘を怖がらせないように、子どもと話すような優しい口調で問い掛けた。
「私は魔王の娘!王立魔法教会で魔法使いをしています!」
魔王の娘は嬉しそうに応えた。
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