037-狙われた理由
セラに連れられ、俺達は夜の小学校へやってきた。
数ヶ月前にここで魔王の刺客スカログロウズとの戦い……というか、セラとカナの二人による一方的なお仕置きが行われた現場ではあるが、わざわざここに来たという事は目的は一つ。
『久しぶり~♪』
体育館近くのトイレ前で、おかっぱ頭の女の子が満面の笑みで手をブンブンと振っていた。
何故か周りに数匹の野良猫がウロウロしているのが少し気になるけど、この御方こそ二回目の登場となる伝説のオバケ『トイレの花子さん』その人である。
『わざわざお兄さんまで連れて来るって事は、例の事件の事だよね?』
こちらから話すまでも無く状況を察してくれた花子さんを見ながら、セラはコクリと頭を縦に振る。
さすがに子供達を護る事を目的として学校に住み着いているだけあってか、そういった情報もしっかりと耳に入れているらしい。
『行方不明になったのが君と一緒に肝試しに来た子だと知った時はビックリしたけど、もちろん既に私も調査を始めてる。コイツらが色々と頑張ってくれてるからさ』
花子さんがそう言いながら足下を見ると、周りの猫達が一斉にセラの方へ目線を向けた。
トイレから出ているだけでも驚きなのに
『……ありがとう』
『いえいえ。うちの学校の子は自分の子みたいなモンだから。まあ、子供産んだ経験は無いんだけどね~』
優しくセラに語る花子さんは、まるで姉のようであった。
◇◇
『すまぬが、もし見つけたら宜しく頼む』
『うんっ。他の子達にも捜してもらうように声掛けしておくね』
花子さんは親指を立てながらウインクすると、そのまま小学校の体育館裏のトイレに向かって走り去った。
他の子達というと、やっぱりあの方々だろうなぁ。
「天使に悪魔、更にトイレの花子さんを筆頭に学校の怪談のオバケまで総動員とは……」
『背に腹は代えられんからな。今はユキコの無事を確認するのが最優先じゃ』
夜の小学校を出た俺達は、続いて次の目的地へとやってきた。
それは高級住宅街の
大理石で飾られたエレベータに入り13Fへ移動し、指定された部屋のインターホンを押すとすぐにドアが開かれた。
『やあ、こんばんは』
そこに姿を現したのは、先日のセラ暗殺騒ぎ以来、御近所さんになってしまった第四王位継承権者ことグイレズだった。
「やっぱお偉いさんだけあって住居が高級マンションとはねぇ。さすが超VIP待遇は違うな」
『開口一番それかい! というか、僕的には一国の王女様であるセラの護衛が無い方がおかしいと思うよ。せめて綜合警備保障くらいは付けたらどうだい?』
俺とグレイズは互いに皮肉を言い合いつつ応接間に行くや否や、すぐに本題に入った。
『君達が捜しているユキコという子について調べてみたけど、ちょいとばかし複雑な事情がありそうだ』
「複雑な事情?」
俺が問いかけると、グレイズは難しそうな顔で言葉を選びながら語り始めた。
『あの子は
『何じゃとっ!!?』
セラが驚愕の表情で席を立ち上がった。
「リペナンスって何?」
『……過去の罪が余りにも重すぎた結果、死後転生した後にまでその償いが続く事を意味しておる』
「死後にまで償いが続く程の罪って、ユキコちゃんは一体……?」
グレイズは少し迷いながらも手元の資料を机に広げた。
さすがに異国の言葉のため全く俺は読む事が出来ないのだが、そこに書かれた内容を和訳しながら読み上げ始めた。
『彼女はかつて人の身でありながら多数の悪魔と契約し、悪魔が魂の取り立てに来る都度に新たな悪魔と契約してそれを撃退……という、激しい多重債務を繰り返してたんだ』
「うっへぇ……」
三つ編みのメガネっ娘でクラス委員というド直球な優等生だと思っていたのに、その正体がまさかそれとは。
人は見かけによらないものだなぁ……。
『当然ながら雪だるま式に借り入れが膨らむからね。最終的に対処しきれなくなって破綻してしまったわけさ』
「そんな子がどうしてこの世界に?」
『
グレイズの言葉に何だか少しドキリとする。
それはつまり、悪人は何度輪廻を繰り返しても救われないと言っているようなものではないか。
『んで、第二世界における歴史上最悪に魂が穢れきった彼女を、魔力を全く持たない身体にブチ込んで記憶だけそのまま継承させたらどうなるのか? ……って人体実験、もとい検証をする事になったらしい』
「それをヨソ様の世界でやろうと考えた奴も、それを許可したこの世界のお偉い奴も、ロクでもねえなぁ」
さすがにグレイズも同意見なのか苦笑しながら頷いた。
だが、セラは腑に落ちないのか
『そろそろ本題に入るが良い。ユキコは何故狙われた?』
『……転生後の彼女の身体は魔力を保有していない故に、そのままでは魔法を使えない』
『そのままでは?』
『ああ。そこに魔力を供給する"何か"があれば強力な魔法砲台になるってことさ。記憶を継承してるって事は、魔法詠唱の知識もそのままって意味だからね』
グレイズの言葉にセラの顔が青ざめる。
『彼女を誘拐したのは間違いなく第四世界の連中だ。その目的は、絶大な威力を持つ魔法を悪用する為。そして奴らの狙いは……』
俺の目をジッと見ながら溜め息をひとつ。
『君だよ。勇者リク君』
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