031-新しい年に期待を込めて

『ホントに、信仰心はどこに行ったんですかね……』


 カナが力無くうなだれながら人混みをトボトボと歩く。


「だから数日で別の神を崇め始めるっつったろ? 俺らの国は昔から八百万の神が居るって言われてんだから」


『そんだけ神様が居れば、私の仕事も少しは楽になりそうなんですけどねぇ』


「当事者が言うとリアルだなぁ」


 というわけで、クリスマスから約一週間が過ぎて今日は1月1日。

 俺達は皆で近所の神社へ初詣に向かっていた。

 予定通りに実家の前で早苗姉さんと合流したわけだが……


『リっくーん。あけましt』


 笑顔のまま硬直した早苗姉さんの目線の先には、キョトンと首を傾げたカナの姿。


『どうも初めまして。天野カナと申します』


『あっ、はい。初めまして、私はリっくんの姉の……伊藤早苗です』


 妙にギクシャクしてんなー……あっ!


「えーっと。一応カナとは和解したというか、今は俺やセラを護る為に協力してくれてるから……」


『むーーー……』


 早苗姉さんにとってカナは『おれに転生を要求した憎き天使』なわけで、全身から警戒のオーラを放ちながらカナを威嚇していた。


「早苗姉さん、俺は大丈夫だから――」

『リっくんはセラちゃんのだから!』


 ……はい?


『カナさんがリっくんと一緒に暮らしてるっていう情報は、とっくにコチラにも入ってます! 堂々と同じ学校に転校してきた上、同じクラスに居るって事もですっ!!』


 魔界関係者独自のネットワークがあるのか、謎の情報ネットワークによってカナの情報は筒抜けだったらしい。


「で、俺がセラの~って、どういう意味???」


 呆れ顔で問いかける俺に、早苗姉さんはフフンと笑って応える。


『おねーちゃんは前言通り、リっくん×セラちゃん派だから!』


「意味わからん」


 呆れ顔で溜め息を吐く俺を見て、皆はおかしそうに笑う。

 ……いや、キサキだけ複雑そうな顔をしている。


「どした?」


『早苗さんはカナさんに対し、リクさんを取られる事を心配してるみたいっスけど、何で私はノーカンなんスかね? 私も一応、リク君と同じクラスにやってきた留学生って設定っスよ』


 コイツついに自分で設定とか言い始めた。

 だが、早苗姉さんはそんなキサキの肩をポンと叩いて首を横に振った。


『キサキちゃんから、ヒロインのオーラを感じられないの……』


『オウフ』


 早苗姉さんにキャラクター性を根底から否定されてショックを受けたのか、キサキはフラフラと俺に向かって倒れかかってきた。


『こうなったらラッキースケベとかムフフ展開で、セクシー路線に向けてテコ入れすべきっスかね』


「おい、自分を見失うんじゃない!」


 そんな感じで俺達が騒ぎながら歩いていると、前方からお馴染みの兄妹がやってくる姿が見えた。


「なんだリク。ついにキサキにまで手を出すとか、節操ねえな」


「人聞きの悪い事ぬかすな! っつーか、そもそも誰にも手を出……ハッ!?」


 そこまで言い掛けた俺は、危うく爆弾発言をしそうになった自らの口にブレーキをかけた。

 そんな俺を見て、セラは嬉しそうに俺の肩をポンポンと叩いた。


『よくぞ踏みとどまった。偉いぞリク』


「なんで褒められてんだ俺……」


 その一方、カナが邪悪なオーラを漂わせながら神崎の肩をポンポン……というか、ゴスゴスと叩いた。


『そういうデリカシーに欠けた発言は、関心しませんねー。ぶっ殺しますよー?』


「ヒィィ!!」



◇◇



『神を崇める神殿にしては、何だか俗っぽかったですねぇ』


「神社なんだけど……。まあ、カナにとっては異教の文化なら同じようなもんか」


 初詣客でごった返す神社でキョロキョロしているカナの姿はまるで、日本文化に驚く外国人観光客のようだった。

 縁日ほどではないにしても屋台もそこそこ数があり、変な形のフライドポテトやらフランクフルトやらを売っている様子には、さすがのカナも驚いたらしい。

 一方でセラ達小学生3人組は、綿菓子を手に子供らしく(?)初詣を堪能している様子。


『あそこで売られているお面、リンナに似ておるな』


「ん、どこどこ? あのキテ○ちゃん???」


『いいや、その左隣のヤツじゃ』


「それガ○ダムーー! 私と似てる要素が無いどころか無機物じゃないのっ!!」


 からかわれていた事に気づいたのか、リンナちゃんはプンプンと怒りながらセラを追いかけ回している。


「二人とも~、走っちゃ危ないよ~~」


 そんな二人に振り回されてオロオロしているユキコちゃんの姿に、自然と俺達も頬が緩む。


「何だか賑やかになっちまったな」


「兄貴としては妹を取られて寂しいとか?」


 俺が笑いながら言うと、神崎はリンナちゃんの方を見ながらフッと笑った。



◇◇



 参拝を済ませた俺達は神崎達と別れ、関係者だけで伊藤家じっかに集まっていた。

 年始の挨拶もあるけど、もう一つの目的はセラと俺の前に姿を現した第四王位継承権者グレイズについて話すためだ。


『私もその情報は掴んでいます。無論、グレイズ氏の目的がセラちゃんの護衛と、命を狙う不届き者の撃退だという事も』


 早苗姉さんは淡々と言うものの、その顔からは不機嫌そうな雰囲気が噴き出している。


『王族とて、リっくんとセラちゃんの仲を邪魔するのは許すまじ……』


「ねえさーん、かえってきてー」


 俺が苦笑しながら呼びかけると、早苗姉さんはコホンっと咳払いをしつつ、改めて真剣な表情で語り始めた。


『まず結論から言うと今回の件に関して私達は、リっ君達に一切の協力を行う事が出来ません』


「えっ!?」


 予想外過ぎる言葉を受けて、俺達一同は驚愕する。

 そんな俺達を見て早苗姉さんは悔しそうに唇を噛むと、俯きながら理由を話し始めた。


『私達は第二世界セカンドの民を保護する役目を与えられていますが、そのシステムそのものは支援者スポンサーの協力によって成り立っています。つまり、情報収集だけでなく、こちらの世界の住民として暮らす為の手続きや根回しも含めて、全て支援者の協力無くして実現出来ません』


 そこまで言ったところでカナが意味に気づいたのか、ハッとした顔で早苗姉さんの方へ向いて口を開いた。


『まさか、スポンサーは……?』


『グレイズさんの御両親です。こちらの世界で言うところの、国同士の平和維持を目的とした国際団体のトップと言えば分かりやすいでしょうか』


「あー、なるほどな……」


 調査の為の人員をくれと言って、その調査対象が『自分の息子』だなんて、そりゃ通るわけが無い。

 しかも許嫁を助けるために渡航した我が子に対し、当人達がそれを疑わしいから調べさせてくれ~……なんて言おうものなら、それだけで援助が打ち切る理由としては十分だ。


『私も、このタイミングでグレイズさんが出てくるのは絶対怪しいと思う。でも……本当にごめんなさい』


 涙目で謝る早苗姉さんを見て、セラは笑いながらその頭を撫でた。


『えっ、えっ?』


『安心せい。仮に奴が我輩の命を狙ったとしても、この面々が負けるはずなかろう』


 セラが俺達を見て笑うと、俺の頭の上に乗っかっていたホロウがバサバサと羽ばたいた。


『無論、お主にも期待しておる。宜しく頼むぞ』


 そう言われたホロウは嬉しそうにパタパタと部屋を飛び回った。

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