029-パーティ、そして
「はっぴーほりでーず!」
リンナちゃんの言葉に皆が首を傾げる。
「お前、何言ってんの?」
神崎のツッコミにリンナちゃんはフフンと鼻で笑う。
「メリークリスマスは特定宗教のみに限った言い方だから、セラみたいに違う神を信仰してる子が居る場合には、この言い方が正解なのよっ!」
「へぇ~」
感心する兄に対してドヤ顔をするリンナだったが、その
『ああ、その事なら心配無用じゃ。我輩は神を信仰しておらんから、別にメリークリスマスでも良いぞ』
「ぐはっ」
そもそもセラは死神だもんなぁ。
見た目的にメリークリスマスがNGっぽいから、リンナちゃんの気持ちは分からんでもないけど。
「そういう心配りが出来るところ、私は好きだよ~?」
雪子ちゃんという二人のクラスメイトの子に言われ、リンナちゃんは真っ赤になって照れてしまった。
この子、なかなかリンナちゃんの扱い方が分かってるなっ。
『尊い……尊い……!』
「早苗姉さんは何を言ってるの」
というわけで、我ら伊藤家と神崎家の関係者が一同に集い、盛大なクリスマスパーティーが開かれているわけだが、何故かひとりだけカウンター席に座ってる奴が居た。
「キサキ、何やってんの」
『お湯が上に昇るの、すげーっス』
そう言うキサキの目線の先を追うと、
「あー、サイフォンかー。気持ちは分からんでもないな」
確かに、目の前でフラスコがバーナーで加熱される様子を見ていて楽しい。
湯が逆流して昇っていくのも、何だか理科実験みたいだし。
「俺もここに初めて来た時は、カウンター席でずっとこれを眺めてたなー」
『私を一撃で葬り去る炎が目の前で揺らぐスリルがたまらないっス』
「そんな訳の分からない理由でサイフォン眺めてる奴を見たのは初めてだわ」
俺が呆れて苦笑していると、隣の席に神崎がやってきた。
「今からケーキ切り分けるみたいだぜ。アイスもあるからキサキも貰ってこいよ」
『お、神崎君サンキューっス』
さっきまでサイフォンを真剣に眺めていたキサキは目を輝かせて飛んでいってしまい、現金な姿に神崎も呆気にとられてしまった。
「それにしても店を貸し切ってパーティを計画するとか、神崎も思い切った事したな」
去年の冬は、神崎や他の連中と一緒に某大乱闘なゲーム大会で聖夜を過ごしていたので、実はこんなパーティをやったのは今回が初めてだ。
だが、感心する俺を見て神崎は手を振りながら笑っている。
「これをやろうって言い出したのは、俺じゃなくてリンナなんだよ」
「へえ、そうだったのか」
少しだけ頷きながら神崎は妹達の方へ目線を向けた。
そこでは大きさの違うケーキ2つを取り合うリンナちゃんとセラの姿があった。
……つーか、セラは何マジになって子供相手にケンカしてんだ!?
「セラちゃんや雪子ちゃんと、一緒に遊ぶのがすげー楽しいんだろうな。あいつ、今までそういう友達とか居なかったみたいだしさ」
確かに、聞いた話によるとセラが登校した初日にいきなりリンナちゃんが
これが別の子が相手だと大きなトラブルになっていた可能性もあったのだ。
「情けねえ話だが、あいつが寂しがってる事は分かってても、俺や親父じゃどうにもしてやれなくてな。……ホント、ありがたいぜ」
そう言いながらリンナちゃんを見る神崎の目は、とても優しい兄のそれだった。
『神崎君って、普段の言動はキモいのに妹の事に関しては真面目なんスね。ブラコンっスか?』
バニアアイスを山盛りに積んだキサキが、デカいスプーンで口いっぱいに頬張りながら戻ってきた。
「誰だコイツにこんな言葉教えた奴は」
「お前がウチに置いていったマンガとアニメが主犯だっつーの」
俺が呆れ顔でぼやくと、神崎はこんな顔(・ω<)で誤魔化して逃げていった。
◇◇
神崎珈琲店を貸し切りで行われたクリスマスパーティーもお開きとなり、俺とセラは帰路についていた。
ちなみにキサキは『あの店は暖房効き過ぎで、身体の火照りが……。ちょっと外で涼んで帰るっス』とか言ってどっか行ってしまった。
「真冬に涼むって言葉を使うヤツ初めて見たわ」
『ははは、全くじゃな』
そんなたわいもない会話をしながら
「そういや、あのパーティを考えたのはリンナちゃんらしいぞ」
『ほう。口では強がりを言いおるくせに、全く
そう言って笑うセラはまるで、泣き虫な妹を見守る姉のようだ。
『やれやれ、兄だけでなく友人まで世話が焼けるとは、我輩は苦労が絶えぬのぅ』
「よく言うよ」
『だが、この生活は……我輩が今まで生きてきた中で、一番充実していて楽しいな』
突然のセラの告白に少しドキリとした。
――こういう毎日がずっと続けば良いのにな。
俺は、数日前にセラが呟いていた言葉を思い出していた。
『城での暮らしも決して悪いものではなかったし、とても身勝手な
こうやって一緒に居ると、ふと忘れてしまいそうになるけれど、セラは異世界からやってきた死神であり一国のお姫様なのだ。
だが、セラの表情から察するところ、その生活は決してセラにとって望ましいもので無かったのは明らかであろう。
そんなセラの顔を見て、俺は自分でも驚くくらい即座に次の言葉を口にしていた。
「ずっと一緒に居てくれて良いよ」
俺の言葉に、セラは一瞬とても驚いた顔で俺の顔を見上げてきた。
それから俺の右手を握ると、嬉しそうに笑った。
『……うむ。これからも宜しく頼む』
俺とセラは向かい合わせで笑いあって……
『それは困りますね』
突然、後ろから見知らぬ男に声をかけられた。
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