026-見知らぬ国のトリッパー
『なんと、お
久々に逢えて号泣する騎士を前に、セラはゲンナリした顔で困り果てていた。
「セラ、この方は……?」
キィンッ!!!
俺が騎士の素性を
一瞬何が起こったのか分からなかったが、どうやら騎士が剣の切っ先を俺に向けてきて、それをカナが槍で迎撃したらしい。
『セラ様と呼べ、人間ごときが!』
『虫ケラの分際でリクさんに刃を向けるとは……魂すら残さず消し炭にしてやろうか、このクソ※※※め……』
何かスゴい放送禁止用語が聞こえた気がするけど、聞かなかった事にしておこう。
てなわけで、全く話についていけない俺を置いてけぼりなまま、一触即発の二人が凄まじい睨み合いを始めてしまった。
『剣を引け、アルカ』
セラが不機嫌そうに命令すると、アルカと呼ばれた騎士は慌てて腰の鞘に剣を戻した。
だが、一方のカナは臨戦態勢のまま槍を引かない。
『これはつまり、丸腰の虫ケラをこのまま
「頼むからカナも槍をしまってくれ……」
俺が呆れ顔でぼやくと、カナはイタズラっ子のような顔で舌をペロッと出してから槍をポンと消し、向かいの席に腰を下ろした。
『我輩達は今から
『はっ! 命に代えても!』
食事待つだけで何を命に代えるというのか。
ツッコミを入れたい気持ちをぐっと抑えつつ、三人は黙々と食事を始めた。
「『『………』』」
……つーか、すっげえ食べづらい!
メチャクチャ不機嫌そうなカナもだけど、正面に座ったアルカから凄まじい熱視線を浴びてグッタリしているセラも可哀想すぎて見てられない。
せめてセラに向いている矛先を逸らせまいかと、俺は冷凍庫の底の方から冷凍食品の袋を取り出して、恐る恐るアルカに歩み寄る。
「あの……冷凍チャーハンでも、食べます?」
『え、チャーハン???』
よく分かってなさそうだったので、とりあえず皿に盛ってレンチンしてみた。
「これ、どうぞ……」
お盆にチャーハンとお茶を乗っけてアルカの前に置いてみた。
客に振る舞うにはあんまり過ぎる気もするけど、今週の料理当番はカナだから勝手に食材を使うと怒られそうだし。
『ああ、ありがとう?』
アルカは
それから少し間を置いて『うっ!』と唸った後、スプーンをカランと音を立てて皿に落とした。
『お、おいっ、どうしたのじゃ!?』
『さすがリクさんっ。油断させておいて毒殺ですかっ!?』
「してねえよ!!」
三人が騒ぐ中、硬直していたアルカがバッと顔を上げ、再びスプーンを手に取ると、一心不乱にチャーハンをかっこんだ。
あっという間に平らげたアルカは、バッとこちらへ向いてきた。
『これを作ったのは貴方か!』
「いや、温めただけだけど……」
『では、これを調理したシェフは誰だ!』
「シェフ……たぶん有名な中華料理人が監修してるかもしれないけど、こういうのは工場で自動調理じゃないかなぁ」
俺の言葉にアルカは驚愕し、右手のスプーンをカランと落とした。
『自動調理だと……!
数百年前と比べたら、そりゃ別世界だろうなぁ。
『ふふん、そうやって与えられた権限でおんぶにだっこしてるから、
『それはこの世界の者達が凄いだけで、お主が威張る事ではなかろうに……』
鬼の首を取ったかのように喜ぶカナを見て、セラは溜め息をひとつ。
箸を置いて再びアルカの方へ向くと、真剣な表情で口を開いた。
『他ならぬ、お主への頼みじゃ。何も見なかった事にして、国に帰ってはくれぬだろうか?』
『
んんん???
「家臣とか国王とか、どゆこと?」
俺が問いかけると、アルカはギョッとした顔でこちらへ首を向けた。
『貴方は何を言っているっ! セラ様はグラン王家の第三王位継承権者であらせられるぞっ!?』
「王位継承って……え、マジ?」
『ということは……お姫様っスかっ!?』
俺とキサキが視線を向けると、セラは更に大きな溜め息を吐いた。
◇◇
グラン王家では二十歳になると、より見聞を深める事を目的として、見知らぬ世界を旅する事が義務付けられている。
第三王女であるセラは『我輩が三番目なら行く先も
『とまあ、こんな具合じゃな』
「そんな、サイコロ振って出た目で行き先を決めたような理由アリかよ……」
『それで邪魔されたとか、やっぱりこのクソ死神女を抹殺するしか……っていうか、それよりも!!』
カナがテーブルをバンッと叩いて立ち上がる。
『その"のじゃ"口調ですよ! ずっと年寄りだからだと思ってたのに、まさかのおてんば姫口調とか、想定外過ぎるでしょう! しかも二十歳とか、私よりめっちゃ年下じゃないですかっ!!』
「えっ! そこ大事なの!?」
まあ俺も、元の姿がセクシーなオネーサマだったから結構な年齢だと思っていたのに、まさか早苗姉さんと同い年なのは完全に想定外だったけれども。
『……ふむ。我輩の口調はともかくとして、お主が先輩風を吹かせるとは思わんかったが、そこまで言うならば敬老の精神をもって接するとしよう』
『ババア扱いはもっとイヤァァーー!!』
『カナさん、すげー面倒くさ……いっ、いや、何でも無いっス!!』
蛇に睨まれた蛙のように、キサキはたじたじになって俺の後ろに隠れた。
「それはともかくとして、アルカさんが来た理由って、やっぱりセラを連れ戻すため?」
『連れ戻すと言う程ではないが、いつまでも連絡を寄越さないと国王夫妻が御心配しておられていてな……。セラ様の御無事を確認できたので一安心ではあるが、やはり一度お戻り頂きたいと』
王女様が別世界に旅に出て音信不通だものな。
そりゃ心配して当然だろう。
『うぅむ、一度戻りたいのは山々ではあるが……』
セラが困り顔でチラリと俺に目を向け、俺も同じようにセラに視線を向けた。
互いに見つめ合う形になった俺達を見て、アルカがハッとした顔で
『……なるほど、そういう事か』
『「???」』
『その人間に
「何でそうなるっ!?」
勘違いしたアルカが、血の涙を流しそうな程に恨めしい顔で俺を睨み、腰の刀を抜くと……思いきりセラにチョップされた。
『馬鹿者! そもそも我輩の姿を見て何とも思わぬのか!?』
『恐ろしい程に可愛すぎて、拝み倒したい所存です!!』
ダメだこの人。
『我輩が好き好んでこのような姿をすると思うのか?』
『はっ! まさか、この男に強要されて……!』
『違うわああああーー!!』
同じような会話をループする二人に、だんだんカナの表情から笑顔が消えてゆく。
『この輩を"魔王の家来"とか、適当に理由をでっち上げて強制送還しちゃダメですかね』
「気持ちは分かるけど我慢してくれ……」
◇◇
『なんと、そのような事が……』
事の経緯を聞き終えたアルカは、愕然とした表情でセラを見つめる。
『であるから、父上と母上には内密に……』
『いえ、正直に伝える方が都合が良いかもしれません』
『なんでじゃ!?』
どうしても内密に事を済ませたいセラだったが、アルカは頑なにそれを拒もうとしている。
何だかその行動に酷く違和感を覚えた。
「あの、アルカさん。セラの事を凄く溺愛している感じだったのに、どうしてこれだけは嫌がっているのを押し切ってまで強行したいんだ?」
『っ!? ……セラ様が心をお許しになるなりの理由はある、か』
アルカは俺達全員の顔を見てから、フッと笑った。
『これから、私がここに来た本当の理由をお話します』
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