ちょっ!幼なじみなのです!

 ガラガラと引き戸が開いて新たな客が入ってくる。

 入り口の付近の食券機に千円札を入れ込み、一番左上のボタンを押して食券を手に取る。

 同時に出てきたお釣りをポケットに詰めて。その客は俺の隣の空いている席に座った。

 

「あ!」

 

 そいつは俺の知り合いだった。というか、俺の幼馴染だった。

 幼稚園から同じで、クラスは違うけど高校も同じだ。

 そいつはちょっと猫っぽい瞳をしたショートカットの丸顔女、百谷紅音ももたにあかねである。昔は一緒に魔法少女ごっこもした仲だ……今考えると死にたいほど恥ずかしいじゃねえか!

 

「なんだ、ビックリしたなあ、新太郎か。そう言えば今日アニメショップ行ってたって本当?」

「げ、なんでそれを知ってんだよ」

「メールが着てたのよ、明日香ちゃんからね。あの子、あそこの店の店員さんだもんね」

「お前、飛島とメールしてんのか?」

「いや、いつもはしてないよ。今日唐突に来た。あの人って可愛いけど無茶苦茶だよ」

「ほう……」

「でもね、新太郎の方が闇が深いってことがわかった」

「へ?」

「わからないの?」

 

 飛島の奴、紅音になんてメールを送りやがったんだ?

 俺が今日飛島に晒した醜態なんていくらでもあるぞ……。

 でも紅音は俺がアニメショップに行ったことを前提に話してきた。ってことはアニメショップで俺がやったことか……。

 

「わからないならもういいわ。あたしがあんたを成敗してあげるから!」

「なんで俺が成敗なんてされなきゃいけないんだ、説明責任を果たせ!」

「幼馴染として実に不愉快だからっ!」

 

 ペチーン!!

 乾いた音が店中に響く。

 

「そんなにパンツが観たいんならあたしに言ええぇぇぇぇええぇぇぇぇぇええええええええ!!!!」

 

 へ? パ、パンツ?

 しかし今のは痛かったぞ!!!

 でも紅音が俺を微塵も心配してなさそうだったので、そう主張するのはやめとこ。

 

「これが明日香ちゃんからのメール。読んでみて」


俺は紅音のスマホを手に取り、そのオゾマシイ文章を恐る恐る読んでみる……。


 ――飛島明日香からのメール――

「紅音さん、ちょっと唐突に送るけどごめんね。

 貴方の彼氏さんが今日、私の店に来たの。

 それで何してたと思う? 店のフィギュアのパンツをアクリルケース越しに覗いてたのよ。

 欲求不満にも程があるわよね。貴方は彼女として情けないわよ。

 付き合ってるなら責任を持って欲求不満を解消させてあげないと。

 だから代わりに私が新太郎くんに抱きついておいたから安心してっ!

 あ、余計ムラムラしてるかもしれないから攻めるなら今日がチャンスよ。

 

 そうそう明後日のマギアゲーム、紅音さんも出るんでしょ? せいぜい健闘を祈るわ。

 優勝するのは私だから。あと新太郎くんには私を応援するように頼んどいたから。

 それじゃあ、唐突なメールごめんなさいね。」

 

 想像以上にやばい文章がそこには書かれていた。そもそも俺は紅音と付き合ってないし。

 というかマギアゲームって……紅音も出るのか? コイツも魔法少女だったのか? 冗談だろ!?

 

「飛島の中では勝手に俺たちのことカレカノの関係にされてるな」

「そんなの明日香ちゃんもあたし達が付き合ってないことくらいわかってて、弄ばれてるだけでしょ! こんなのあたしが一番腹立つじゃない。あんたなんかと誰が付き合うものですか!」

 

 言っておくが今日の紅音は俺に対しての当たりが最近の中ではかなり強めの日だ。

 それだけ不服なのだろう……飛島にからかわれたことが。

 

「というかマギアゲームって書いてあったけど、お前も出るのか?」

「わ! 誤魔化した!!」

「いや、だって気になるだろ普通! マギアゲームって言ったら今やオリンピック以上の注目度だろ? それに出るなんて凄いじゃないか」

 凄い、という言葉に紅音は頬を紅潮させ、少し照れたような顔をした。

 受け売りの知識だけどな。

「でもあれって魔法少女のための大会なんだろ?」

「そうだよ」

「お前魔法なんて使えるのか?」

 

 失言だったようだ。紅音はまたもやムッとした顔をした。

 

「そんなに気になるんだったら明後日からの中継観ててよね。あたしの強いところ見せてあげるから!」

「魔法ってどんな魔法だ?」

「だからテレビで観てなさい!」

「飛島も本当に魔法少女なのか? あいつが魔法を使うなんて俺には全然想像つかないけど……」

「うるさい! あんたはあたしだけの心配をしてればいいのよ!」

 

 紅音は不機嫌なようだった。魔法バトルってのがどんな勢いで行われるのか詳しく知りたかったが、これじゃあ無理そうだな。

 炎の魔法とかで全身が焼け焦げたりはまさかしないよなあ。

 もしそうだったら俺は飛島と紅音が出場するのを今すぐにでもやめさせないといけない気がするぞ。

 まあ、テレビで大々的に報道している大会でそんなことはないか。

 

「おい、出来たぞ。コロッケそばでお待ちのフィギュアのパンツ覗き野郎なお客様~」

「うっせえ、生涯独身確定の蕎麦職人の分際でよ!」

「なんだとぉ!? まだ俺が独身だって決まったわけじゃねえだろ。つーか、誰のおかげでお前が生活できてると思ってんだ馬鹿野郎!!」

 

 そうやって軽く口喧嘩してると、周囲の客がクスクスと笑っていたので俺は黙った。おっさんもそれに勘付き黙った。

 俺はコロッケそばのコロッケをまず一口食べてから、麺をずずずッと啜った。

 うん、麺とつゆは美味いが、コロッケそばというメニューは不味かないけど美味くもない。

 一口目の勢いそのままに、俺はコロッケそばを数分で完食してしまった。

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