飯でも食いに行くのです!
しかし、なんだか妙に腹が減ってきたな。そう言えば今日なんか食ったっけ?
我慢して寝るような時間でもないし、外食でもするか。
今日は妙に麺類が食べたかったから近くの蕎麦屋に行くことにした。
俺がTシャツとジーパンに着替えて(流石に着替えないとやばいからな。というか、さっきまで着替えてなかったって考えると何とも言えないぜ)歩いて五分もあれば着く近所の蕎麦屋に向かった。
ガラガラ、と俺は引き戸を開ける。
「へい、らっしゃい!」
この店は俺の伯父が経営している店で、俺の曽祖父の代からやってる老舗だ。
昔ながらの古い建物で、洗練されたつゆの匂いが鼻腔を蕩かす。
ここの店の蕎麦は美味い。親戚だからとかそういうのを抜きにして別格だ。
店は狭いから空いている席は一つしかなかったので、俺はその空いているカウンター席に座った。
「じゃあコロッケそばで」
「じゃあって何だ、じゃあって! まったく、お前は相変わらず食券機を嫌がる奴だな。せっかく高い金払って買ったっていうのによ」
「うるせー、悪徳セールスマンに騙されて買っただけだろ!」
「お前な、言って良いことと悪いことがあんだろうがよお!」
おっさんとはこういう感じでいつも言い合いをしているが、べつに仲が悪いわけじゃない。
寧ろ、おっさんが居なかったら俺は生きていられないくらいだ。俺の生活費は全ておっさんが賄ってくれている。
まあそんなわけで、この店に行けばタダで飯を食わせてくれるわけなのだが、おっさんはいつも食券でちゃんと金を払って食えと主張する。
堂々と身内贔屓をしている姿を客には見せたくないというプライドがあるのだろう。そんなプライドが役に立つことはあんまりないけどな。
俺はひたすらにコロッケそばが出てくるのを待っていた。
コロッケそばは特別うまい食べ物じゃない。
なんとなく妙な日に、なんとなく注文して、なんとなく完食するための飯だ。
コロッケそばを待っている間にも、隣の客は如何にも美味そうに天ぷら蕎麦を食う。わりとよくいる作業服を着た中年の男だ。
男は器を持ち上げてつゆをクビクビと勢いよく飲んでいく。完食だ。
男はぷはー、と声を出して腹を撫でる。
「今日も美味かったよ。あんたのとこの蕎麦はいつ食っても美味いなあ、やっぱ」
「おうおう! でも、いくら褒めたって無駄だぜ」
「あ? 俺は本当のことを言ってるだけだが……」
「褒めたって、落語の時そばみたいには上手く行かねえってことよ。なんせここは食券制だからな。ガッハハハハ!!」
おっさんは上機嫌だった。
「というか、あれ要るのか? いちいち食う前に券なんて買ってたら手間だろ」
客がそう言った瞬間に、不機嫌になったけど。
「何だとぉ!? あれ凄い高かったんだぞコノヤロー」
どうやら、食券は俺以外の客にも不評なようだ。悪徳業者にぼったくり価格で売られたわりには活躍度はミジンコレベルのものと言える。
俺は手を組みながら、おっさんが蕎麦を茹でている光景を何とはなしに眺めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます