なんだかゲームに参加するみたいです?

 飛島の顔を俺は窺う。そして逃げるタイミングを見計らう。

 恥ずかしすぎてユーサネイジアしたい気分。

 ん? ユーサネイジアってなんだっけ。テキトーに言葉がぽんっと出てくるくらい俺は追い込まれてる。

 よりにもよって飛島にこんな姿を見られたとなるとこれからまともに学校生活を送れない気がしてくる。

 勿論、飛島が噂を広めて俺がいじめられることになるかもしれない、なんていう心配をしているわけではない。

 学校に行くとはつまりコイツにも会うということなので、俺はそもそももうコイツと二度と顔を合わせたくない気分なのだ。

 いや、別にきらいじゃないよ?

 

 逆にこんな可愛い子に軽蔑の目で見られて興奮してるところは正直言うとあるし、その顔をずっと眺めていたいくらいだ。

 でもなんだろう、合わせる顔がない、っていう表現が恐らく正しいのだろう。

 俺にはこの女に弱みを握られるなんていう状況を耐えきれるほどの精神力がない。

 

 トイレの中では時が止まったかのように、俺と飛島は持ち場から動かず睨めっこをしていた。

 ここで先に動いたら負けだ、と俺は直感的にそう思ったので直感を信じて動かない。

 その状態でもちゃんと時は流れているようで、トイレには他の利用者が俺たちが硬直して睨めっこしている間に2,3人は入ってきていたし、トイレの流れる音も聞こえた。

 俺は人類史上初めてトイレの流れる音によって時の流れを実感した男かもしれない。

 

 睨めっこを終了させたのは、飛島の方からだった。

「あれ? よく見るとその服ってあれじゃん」

 

 そうか、この服装はよくよく考えてみれば飛島の働いている店のリングをはめたら作られたものだ。当然、その知識はあるはずだ。

 

「今度開かれるマギアゲームの公式ユニフォームよね?」

「ま、マギアゲーム?」

 

 なんだろう、そのマギアゲームというのは。物凄く安直なネーミングだし。

 公式ユニフォームということは大会なのか?

 

「マギアゲームって知らないの? 今や新聞やテレビで報道されてない日はないくらい大きな大会よ」

「そうなんだ、俺はテレビ見てないから知らないや」

「ちゃんとそれくらい見なさいよ! しかしそんなことも知らずになんでそんなユニフォームを着てるの? もしかして新太郎くんって極度の変態?」

「違う! 俺は変態じゃないぞ! 健全な男子高校生だ」

「ふーん、じゃあ変態なのね」

「違うって言ってるだろ!!!!!!!」

「違わないわよ、絶対。それはそうと、それってどの選手のユニフォームなのかしらね」


 しかし、本当にこれをユニフォームと呼ぶのかよ。

 如何にも魔法少女が着ていそうな服なのにな。ユニフォームってのはもうちょっと汗を効率よく吸収して乾燥させるのに特化したものだと思ったがどうやら違ったらしい。

 この服をよく見てみるとコスプレをするためだけにつくられたような見せかけの安い布ではなく、ちゃんと上質で丈夫な布でできているようだった。

 

「というか、そのマギアゲームってのは俺、本当に知らないんだよ。選手とか言ってるけど、何をするゲームなの?」

「わ、本当に知らないのね。世間知らずにも程があるわ!」

「え、そんなにか?」

「まだ大会が開催される前だというのに、メディアはオリンピックよりも過剰に報道してるくらいよ。それを知らないなんてどうかしてるわ。新太郎くん、ヤバイわ。変態だし」

「へ、変態じゃないわっ」

「もしかしてオリンピックって何をするものかも知らないんじゃない?」

「それくらい知ってるよ、俺を侮るべからず!」

 

 飛島にそんな言われようをされるのは心外だった。

 少なくとも学校でそんなマギアゲームなるものの話をしている人は見たこと無いし、飛島の主張はオタクがよくやるような誇張表現に思えた。

 例えば「〇〇を観ていないのなんて、アニメを観ていないも同然だ。総てのアニメは○○を基礎として成立し、最近流行りの△△なんて、〇〇のキャラクターから設定までモロパクじゃないか!」とかいうオタクの主張みたいな。

 飛島はアニメショップで働くくらいのオタクみたいだし、しかも漫研所属だし、そういう誇張をする人間であってもおかしくはないからな。

 

「あ、新太郎くん。ちょうど良いところにポスターが貼ってあるじゃない。多分あそこに要項とかルール説明がしっかり書いてあるわよ」

「ん、ポスター?」

 

 飛島明日香はトイレの外(地下鉄のホーム)を指さしていた。地下鉄のホームには大量の広告が貼られている。

 そこに、『MagiaGame』とデカデカと書かれたポスターがあった。超派手なショッキングピンクを基調としたデザインで、斉藤から逃げるのに必死になってなければ俺だって気付いたはずの目立ちようだった。

 俺はそこに歩み寄っていき、恐る恐るそのポスターに書いてある文章を読んだ。女子が書いたような手書き風の丸文字だ。

 

 

 <大会主催者孫からの暖かいメッセージ>

 MagiaGameは世界一強い魔法少女を決める新進気鋭の格闘大会だよ!

 日程は5月1日から5月5日まで。

 なんでこんな大会を開いたかって?

 だって、みんなゴールデンウィークはどうせ暇なんでしょ? その暇つぶしのための大会よ。特に私のためのね。

 ルールは超簡単っ!

 六メートル×六メートルのバトルフィールドで競技者が一対一で闘う、それだけだから!

 ね、簡単でしょ?

 優勝者に贈られる景品はとんでもなく凄いものよ!

 それさえあれば気になる異性の心もわしづかみ!!!

 詳しいルール説明は開会式でするから、是非中継を観ててね~(゜∀゜)ヒヒ

 あ、大会の参加資格は魔法少女のしるしである『アクセスリング』を持っていること!

 逆に言うとアクセスリングを持っている子は否応なしに会場までワープさせちゃうから気をつけてね?

 気づいていると思うけど、アクセスリングって変身道具のことよ。

 じゃあ、私は参加者の見当を祈るわ。あ、健闘だった?

 誤字を直すか直さないか検討してみたけど、直したほうがいいか全然見当つかないからそのままにしとくわ。

 じゃあ、会場で会いましょう! チャオ~♪♪♪

 

 

 ということらしい……。

 って、おい待てよ!?

 俺はポケットに入れておいた指輪を手で探る。

 まさか、これがそのアクセスリングってやつなのか?

 ちょっとおかしな話じゃないか!

 そもそも俺は男だし、魔法少女なんかでは到底ないぞ。そんな大会に参加させられるとしたら何かの間違いだ。

 ま、まあ……俺がまだこの大会に参加しないといけないと決まったわけじゃないんだし、まだ焦るのは早い。

 大会は明後日かららしいのだが、俺は二日後、久しぶりにテレビでも観て休日を過ごそうかな。

 MagiaGame、見る分には面白そうじゃねえか。

 

「あ、新太郎くん! 言っとくけど私これに参加するから!」


 飛島突然の爆弾発言。

 

「え?」

「だからー、私がこの大会に参加するって言ってるのよ!」

「で、でもだって、この大会って魔法少女の最強を決める大会なんでしょ?」

「も~、あなたったら鈍感ね。というかアホね」

「アホって酷いじゃないか! どういうことかハッキリ言わないお前が悪い」

「ちょっと考えてみればわかるじゃない。私は魔法少女ってことよ」

 

 飛島はそう言いながら俺にリングを見せつけてきた。

 俺の持っているものと同じ形だった。

 

「これがアクセスリング。どう? 羨ましいでしょ?」

「そ……そだねー」

「あなたテレビ観てないっていうわりには妙なネタ引っ張ってくるのね」

 

 飛島の持っているそれが紛うことなきアクセスリングというならば、俺の持っているものもアクセスリングとやらになってしまうのであろう。

 そう考えると、俺はこれを持ってるから明後日目が覚めたらいきなり会場にワープさせられていて、それで強引に大会に参加させられるということなのか?

 それで俺は飛島と格闘技で対戦しないといけないのか? それっておかしくないか? 俺、男だぞ?

 そもそも肉弾戦だったら俺のほうが有利だろう。斉藤を投げ飛ばしてわかったが、力は男の時のまんまだしな。

 悪いけど自信はあるぜ。ああ、ごめんよ。本気で優勝狙ってる女共よ。

 俺は無理やり参加させられた大会で優勝してしまうことになる。それが規定事項であるかのように。

 いやあ、真面目に大会に懸ける思いがある人には申し訳ないけど……。

 ――――アカンわ、優勝してまうわ!!!

 

「ねえ」

「ん、なんだ?」

 

 

「私――最強目指してるから応援してね」

「は、はあ……」

「新太郎くんを私の応援団長第一号に任命します! 私が大会で優勝できたら、あなたと付き合ってあげてもいいわよ!」

「え?」

 

 

 おいおい、なんだかヤバイことになってきた予感がしてきたぞ。

 助けて! 魔法少女になったけどオレ男なんだが? 優勝してしまいそうなんだが!?

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