俺とおネエになった兄

野口マッハ剛(ごう)

兄上が姉上に……。

 俺は二十歳。

 アルバイトを一生懸命して日頃から頼りにしている兄に海外旅行をプレゼントした。兄はどこの国に行くかは明かさず出発した。

 なんだよ? せめてどこに行くかは教えてくれよなぁ? でも、俺が幼い頃から兄は俺を守ってくれた。八歳差上の兄。

 俺はよくいじめられて、小中高はずっと兄が守ってくれた。兄はいわゆるケンカが強かった。地元じゃキングと呼ばれ恐れられていた。対照的に俺はケンカが弱かった。だから、いじめられやすかった。

 恋愛もそんなにしていない俺。

 今日はアルバイトが休み。

 俺は兄が海外旅行を楽しんでいるのを想像して嬉しくなった。

 この家は俺と兄の二人の空間。

 少しだけさびしいけど、あと数日で帰って来る。

 俺はコーヒーを飲んだ。

 ガチャッ。

 ん? 今、玄関のカギが開く音がした?

 誰だろう?

 俺は玄関に向かった。

 え、美女がニコニコして立っている?

 二重でぱっちりとしたキレイな目。

 吸い込まれそうなぷるんとした唇。

 いい香りの長い髪。

 ちょっと待って、胸がデカイ。

 着ている服装がお姉さん風で落ち着きが漂う。

 なんだ? 兄の彼女か?

 しかし、目の前の美女はこう言った。

「ただいま、びっくりしたかな?」

 聞き覚えのあるその声は確かに兄の声だった。

 俺は失神した。



「ねえ? そんなに怒らないでよ?」

 俺は怒っていた。まさか、海外旅行をプレゼントして兄が女性になって帰って来るなんて。

 でも、地元じゃキングと呼ばれていた兄がどうして美女になってしまったのだろう。

 俺は冷静になって元兄にこう聞いた。

「何があったんだよ?」

「別に何もないよ?」

「ウソつけ‼️ それとその話し方をやめろ!」

 女性になってしまった元兄はこう言った。

「ねえ、あなたが女性にモテないのを私は知っているの。それで私は女性になる決意をしたの。イヤかな?」

 ちょっと待って? 俺がモテないのは事実だけど、それがどうして兄が女性になるきっかけになるんだ?

「私は、実はあなたが好きだったの」

 俺は盛大に飲んでいたコーヒーを吹き出した。

「ちょっと待って? 今なんて?」

「だから、あなたが好きなの……」

 目の前で顔を赤らめて恥じらっているのは、俺の元兄で今は絶世の美女。

 俺はなぜか涙が出てきた。

「泣かないで……?」

 こいつが泣かずに居られるか‼️

 だって! 兄は強くてカッコよくて頼りがいのある男の中の男だ‼️ それがどうしてこんなことに……。

「大好きよ?」そういう元兄が俺のそばに寄って優しく抱きしめて来る。

「うわああああ‼️」

 俺はそう言って二度目の失神をした。



 俺は目が覚める。

 添い寝している元兄に俺はドキッとした。

 え、可愛い……?

 待って待って? ちょっと待って?

 俺はどうしてそう思った?

 でも、無防備な美女の姿に俺は思わず……。

 キスをしてしまった。

「うふふ、寝たふり作戦、成功☆」

「え? は? そんなのありかよ?!」

 元兄は力強く俺を布団に引きずり込んだ。

「さあ、逃がさないぞ☆」

「う、うわああああ‼️」



 俺と元兄は深い関係になってしまった。

 俺はそんな運命を受け入れた。

 あーあ、あの頃の兄は帰って来ない。

 今では美女になってしまった元兄が居る。

 でも、ちょっと悪くないかも……?

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俺とおネエになった兄 野口マッハ剛(ごう) @nogutigo

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