【短編】You&me

椛葉優月

水曜日の休日

 頬を掠る冷たい風。

 揺れるカーテンの間から差し込む光。


 よく寝たなと眠たい目を擦りながら体を起こし、時計を見ると針は7時半を指していた。


 今日は水曜日だが、自分にとっては休日。

 仕事は普段そこまで苦ではないのだが、休日というその響きだけで心は軽くなり気持ちの良い目覚めにも繋がったようである。


「ふぁ~あ」


 のんびりと欠伸をし立ち上がり廊下へと出ると階段の下から甘い香りが漂ってきた。

 その香りに誘われるように階段をおりると忙しい息子達の声がした。


「あ!今日習字道具いる!!」

「ちょっと、それ早く言ってよもう35分よ!?」

「お母さん体育着どこ~」

「タンス2段目の左側!」


 忙しい学校組に優越感を覚えながらリビングの扉を開くと予想通り忙しい光景が広がっていた。


「おはよう諸君、いい朝だなぁ!」



「お母さん帽子見当たんない」

「えぇ、いつも同じところに置いてっていったじゃない~」

「よし、行ってきま~す」

「今日もふぁいと、マサ!」


 とまぁ、あえて嫌味100%で挨拶をするも当然の如く忙しさでガン無視してくる彼らに少々落胆しつつテーブルに着くとそこには黄色く光り輝くハニートーストが。

 隣には湯気をあげているミルクまである。

 朝食最高かよ。


「おかーさーーん帽子なーーい」

「今探してるっ」


 しかしゆっくりと過ごしている自分とは裏腹に忙しそうに動く仕事人たちがいる。

 やれやれだぜ。


 仕方なく立ち上がり辺りを見回すと机の下に見知った藍色の帽子を見つけた。


「お~い帽子あったぞ~」

「お父さんナイスゥ」

「いよっ流石パパ!!」

「だろぅ」


 息子と妻からの突然の手のひら返しに大きくアクションを起こし照れる間もなく、息子は扉を手をかけ、


「じゃ、いってきま~す」

「「いってらっしゃい」」


と外へと駆け出していった。


 扉がしまり行き場のない手を下げる。


「さぁて、ご飯食べますか」

「あら、準備しといたから食べてからでも良かったのに」

「お前がぼっちだと寂しいかと思ってね」

「うるさいっ」


 妻の分のミルクを注ぎ、自分の分とレンジにかける。

 と同時に妻は自分の分のトーストをお皿へ盛っていた。


「なぁ、今日どっか行くか?」

「んー、別にどっちでも」

「近場だな、決定」


 一見興味なさげに見えるが微かに口元が緩んで頬を染めている。

 それが彼女のわかりやすいサインなのであった。


「なーに見てるのよっ」

「別に~、わかりやすいな~と思って」

「うぅ、ばーか」


 高校時代から変わらない掛け合いに心地良さを覚えながら彼女から目を戻す。


 3…2…1…ピーッピーッピーッ


 開けてとばかりに叫ぶレンジの扉を開き2杯のミルクを取り出し机に運ぶと、妻は既に席に座り早くしなさいよとばかりに見つめてきた。

 やれやれだぜ。


 自分も席に着き、彼女と向かい合うと、明らかに顔がほころんでいるのが分かった。


 さぁ、今日はどこに行こうかな。

 映画館にでも行こうか、それともショッピングかな。

 まぁ、彼女が楽しめるならどこにでも行こう。


「さぁ…それでは手を合わせて…」

「はい」


「「いただきます」」

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【短編】You&me 椛葉優月 @yuuki0418

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